神隠しの少女 | ナノ






「大変大変!遅くなっちゃったかしら!」
「まだ大丈夫だよ。ほら、そんな走ったら危ないって」

タクシーから駆け下りるホリィママに注意しつつ運転手さんからお釣りを受け取る。苦笑しつつ跳ねるように進む背を負った。
そわそわするホリィママを宥めながら数分。どやどやと出てくる人波の中に一際目立つ長身を見つけた。

「承太郎!貞夫さーん!」

ぶんぶんと手を振るホリィママに気付いた承太郎が手を上げる。人を掻き分ける承太郎の後ろに貞夫パパの姿も見えた。貞夫パパも大きい方だけどやっぱり承太郎に比べると小さいなあ。

「ただいまホリィ」
「会いたかったわ!」
「わざわざわりぃな」
「いやいや、おかえり」

人目も気にせず熱いハグを交わす二人を横目に承太郎と挨拶を交わす。

「にしても飛行機で帰って来るのは久々だな」
「確かに最近は私のスタンド使いまくってくれてたからねえ…」
「…大部分はDIOの野郎だろ」
「まあね。あ、なんか言ってた?」
「ああ。こっちに戻るって言ったらうるせえのなんの…あいつ忙しいのか」
「なんか少しごたついてるみたいだね。ま、彼なら心配しなくても大丈夫でしょ」
「別に心配はしてねえよ」

ふん、と鼻を鳴らす承太郎にこっそり笑いつつ、二人のスーツケースに手を伸ばす。手品のようにパッと消えたそれに承太郎がぱちりと瞬きをした。

「大胆だな」
「案外堂々とやったほうが目立たないって最近気づいてさー」

そんな会話をしていると漸く両親の挨拶が済んだらしい。

「承太郎、元気だった?」
「茉莉香、最近どうだい?」
「「…まあぼちぼち」」

しっかりと組まれた腕に思わず気のない返事をしてしまった私たちを責めないで頂きたい。
ギュウギュウ詰めのタクシーで自宅に戻ると、ホリィママと二人料理を仕上げてしまう。カラッと揚がった夏野菜の天麩羅を山盛りにして運ぶ。

「ああ、美味しそうだねえ」
「天麩羅か…久しぶりだな」
「おうどんとお蕎麦どっちがいいー?」
「ボクはお蕎麦かなあ」
「俺はうどん」
「はいはい、分かりましたよー」

一度台所に戻ってお盆に大根おろしと天つゆを乗せて、ホリィママに二人の要望を伝える。

「了解!流水麺だからすぐ出来るからねー。茉莉香も先に食べちゃっててちょうだい」
「はーい」

居間に行くと既に一杯ひっかけ始めてる二人に続いて私も麦茶を煽る。

「あー、汗だくだわ…」
「油使うと大変だろう。ありがとうね」
「美味いぞ」
「うん。あ、オクラ取ってオクラ」
「ん」

器に入れられたオクラを齧りつつ、チリンとなる風鈴に耳を傾ける。…うーん、風流だねえ。

「はい、お蕎麦とおうどん持ってきたわよー!」
「ありがとうホリィ。天麩羅もとっても美味しいよ」
「あら、本当?貞夫さんが帰って来るからって頑張った甲斐があったわあ」

わざわざ隣に座って貞夫パパの肩に頭を預けるホリィママに思わず承太郎と目を合わせる。ふう、と一つため息を零したがその顔は少し楽しげだ。

「にしても随分多いな」
「あれもこれもって迷っちゃってー。あ、典君呼んだら?」
「この時間じゃ迷惑だろ」
「そうかしらあ…」
「まあ電話だけしてみる?」
「…まあそれでお袋の気が済むんならいいんじゃねえか」

よいしょ、と腰を上げて廊下に出る。昼間の熱気がまだ残っていてやっと引いた汗がまたジワリと滲んだ。

『はい、花京院です』
「あ、空条ですが」
『ああ、茉莉香。どうしたの?』
「いやあ、今日承太郎と貞夫パパが帰ってきて。ホリィママとテンション上がっちゃって天麩羅作り過ぎちゃったんだよね。それでもしよければ典明君もどうかなって」
『へえ、承太郎帰ってきたんだ。是非ご相伴に与かりたいけど団欒の邪魔にならないかな?』
「ああ、それは全然問題なし。むしろあのラブラブ夫婦の空気を是非味わって頂きたい。凄いから」
『はは、それは気になるなあ。じゃあお邪魔させて頂くよ。実を言うと丁度両親が仕事で居なくてね。夕飯どうするか頭を悩ませてた所だったんだ』
「じゃあ待ってるねー。あ、うどんとお蕎麦どっちがいい?」
『じゃあうどんでお願いするよ』

汗のせいでペタペタと湿った足音を立てながら居間へと戻る。

「典明君来るってー」
「そう、じゃあビールもう少し持ってきとこうかしら」
「来てからでいいだろ。ぬるくなっちまう」
「それもそうねえ」

暫くするとチャイムが鳴った。ぱたぱたと玄関に急いで、扉を開ける。

「いらっしゃーい」
「お邪魔します。あ、これお土産」
「おお、立派なスイカ!気遣わせちゃってごめんね」
「いや、うちじゃあ食べ切れないからむしろ助かるよ」
「じゃあ冷蔵庫入れてくるから先居間行っててー」
「分かった」

冷蔵庫の開いてるところにスイカを突っ込んでついでにビール瓶を幾つか持つ。行儀が悪いが足で障子を開くと既に典明君がホリィママに絡まれている所だった。

「典君は相変わらず可愛いわねえ。こんな息子も欲しかったわあ」
「可愛くねえ息子で悪かったな」
「やだ、承太郎も可愛いわよ!世界一可愛い息子よ!」
「ふふ、でも確かに花京院君はいい男だよねえ。どう、うちの娘の婿さんとか?」
「え、あ、いや…」
「あら、茉莉香じゃ駄目かしら?」
「いや、そういう訳ではなくて…」
「こらこらこらこら、何勝手に娘嫁に出そうとしてんの」
「でも茉莉香ももう来年は高校生なのよ?なのに浮いた話の一つもなくて…ママ寂しい!」
「親の贔屓目差し引いても茉莉香ちゃんはこんな可愛いのにねえ」
「周りの人のレベルが高すぎて基準が厳しいだけですう。いつかは相手見つけるから…多分」

ちょっとした冗談のつもりだったが承太郎と典明君の眼が俄かに剣呑な色を浮かべたものだから思わず多分と付けてしまった。…あれだな、まず承太郎たち小舅の審査を通り抜けられる人間がいるかどうかが甚だ疑問だな。

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