神隠しの少女 | ナノ






「承太郎、久しぶり」
「ああ、花京院。悪かったなわざわざ」
「徐倫ちゃんにお呼ばれしたら来ない訳にはいかないからね。元気にしてたかい?」
「ああ。お前の方はどうだ」
「まあなんとかやってるよ。そう言えば茉莉香の姿が見えないけど」
「徐倫の支度中だ。もうそろそろ来ると思うが」
「そうか。彼女も元気でやってるのか?」
「ああ」
「仕事の方も頑張ってくれているよ」
「ポルナレフ!久しぶりだな」
「ああ。二人とも元気そうで何よりだ」

ひらりと手を振ったポルナレフが話の輪に加わる。久しぶりに会う旧友の姿に承太郎と花京院も顔を綻ばせた。

「今年もずいぶん人を呼んだんだな」
「まあな。あいつはどうも徐倫の事となるとブレーキが壊れがちになる」
「まあまあそれだけ可愛いってことだろう」
「確かに貴様の娘とは思えん程度には愛らしいな」
「DIO…」
「んっんー?客に対して顰め面をするとは随分なホストも居るものだなあ?」
「ゲストならゲストらしく殊勝にしてろよ」
「おいおい、こんな時にまで喧嘩をするな。二人とも子供じゃないんだ」
「言ってくれるなポルナレフ。ああ、そうだこの間の件だが」
「こんなところでまで仕事の話は止めてくれ。今晩くらいは仕事を忘れさせてくれてもいいだろう?」
「まあ、そうだな」

わいわいとそこかしこから楽しげな話し声が聞こえる。何時の間に用意していたのか可愛らしく飾られた部屋を見ながら承太郎は目を細める。皮肉を交えながらも談笑を交わすDIO。それに興じる友人たち。彼女がいなければ見ることは叶わなかった光景だろう。徐倫のことだって茉莉香が居たから不器用な自分でもなんとか父親として、愛せているのだと自覚していた。身に過ぎた幸福だと言えば茉莉香はきっと笑って、怒るだろう。そんな姿がありありと目に浮かんで承太郎が小さくほくそ笑んだその時、扉が開いた。
可愛らしいドレスを着て髪を編んだ徐倫に歓声が上がった。扉の側でそわそわしていた母と祖母が駆け寄って口々に褒めているのが見える。頬を赤く染めた徐倫が嬉しそうに笑っていた。

「似合ってるな」
「ダディ!…これダディが選んでくれたんでしょう?とっても可愛いわ!ありがとう!」
「…言うなって言ったじゃねえか」
「徐倫が喜んでるんだしいいじゃない」

小さく肩を竦める茉莉香の薄い肩を軽く殴る。大げさにそこを押さえて痛がる彼女の頭を叩いて、囲まれている徐倫を見遣る。

「承太郎にしてはいいセンスではないか。中々似合っているぞ?」
「ありがとうDIO!DIOも今日はとっても素敵よ!」
「馬鹿を言うな、私は何時も素敵だぞ」
「徐倫ちゃん。今日は一段と可愛いね」
「花京院!ありがとう!」

口々に褒められて徐倫の喜びは留まるところを知らないのだろう。花が舞っているような錯覚すら覚える様な満面の笑みを振り撒いている。少しすると人垣が崩れてその隙間に仗助が滑り込む。目が合った徐倫が一瞬固まって、それまでとは違い少し不安そうな顔をした。

「徐倫ちゃん誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう仗助!えっと、あの…」
「ん?何かあるんすか?」
「あの、似合ってる、かしら?」
「もっちろん!超可愛くてお姫様みたいだって億泰と康一と話してたんだぜー?」

仗助の言葉に徐倫の顔が一転輝かしい笑顔になる。

「ありがとう!ね、今日の料理は私も手伝ったの!食べてくれた?」
「え?どれ作ったんだ?」

こっちこっちと仗助の手を引っ張っていく徐倫に承太郎は少し寂しい様な微笑ましいような何とも言えない気持ちになった。子供の成長とは嬉しくも悲しいものなのだな、なんてらしくもない感傷に浸る。

「お父さんったら寂しいの?」

いつの間にか横に来ていた茉莉香がこちらを見上げている。口元を緩ませた表情になんとも言えず目を逸らす。

「今からそんなんじゃあ先が思いやられるなあ。十年もしたら彼氏が出来たり…もしかしたら結婚したい人が居るの、なんて言われちゃったりするんだよ?」
「…考えたくもないな」
「お父さんは大変だねえ」

くすくすと笑いをもらす茉莉香に承太郎は眉を顰める。

「お前は何も思わねえのか?」
「んー?そうだねえ、寂しいとは思うだろうけど。でもあの子を幸せにしてくれてあの子が幸せにしてあげたい、って思える相手ならなにも文句はないよ」
「…そんなもんか」
「そんなもんさ。まあ大丈夫だよ、寂しいけど寂しくないから」

矛盾したことを言う茉莉香を見下ろせば、優しく優しく微笑んでいて。するりと指と指が絡み合わさる。

「あの子がお嫁に行っても隣には私が居るよ。それじゃ不満かな?」
「…そんなわけ、ねえだろ」

ふふっと笑いを零した茉莉香がそっと承太郎の腕に頭を靠れかかさせる。

「愛する人が側に居る幸せを私たちは知ってるでしょう?私たちの可愛い子がその幸せを享受できるのはとっても素敵な事だよ」
「……そう、だな」
「間が気になるなあ。まあでも。まだまだ私たちの小さな可愛いお姫様で居てほしいね」
「ああ」

承太郎は絡んだ指に力を込めた。今この瞬間の幸福を逃がさない様に。愛する人が娘が、側に居て笑っている。それはとてもとても、得難く幸福で、素敵な事だから。

「ダディ!茉莉香!ケーキの蝋燭つけちゃうわよ!」
「はいはい今いくからちょっと待ってね」

行こう、と一歩踏み出して茉莉香が笑う。承太郎は一度目を細め、足を動かす。彼の目に見える世界は今、キラキラと輝いていた。



世界を輝かせるのは君
彼らの元に小さな小さな王子様が来るのはちょうど一年後のこと

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