神隠しの少女 | ナノ






…そう、あの時も、私は"自分で選択した"のだ。
それは、揺るぎない事実で。それでも心に引っかかるものがある。それは、私が居なければ、という根深いものだ。
そう、あの男を殺したことに対する罪悪感だと、思いこみたかったのだ。それでカモフラージュしていれば、私は私の存在の罪深さを直視せずにすんだ。
両親は私をかばって亡くなった。おばあちゃんは私が居なければ死なずに済んだ。

私は、周りを不幸にする。

5年前、両親が亡くなった時にそう、思った。でも、イタリアに来て優しい家庭に恵まれて。そんな風に思うこともなくなっていたのに。今回の事件でその思いが蘇り、私を重く包み込んでいる。それが辛くて。殺したという罪悪感に逃げ込んで、消えたいと願っていたのだ。
全く、どこまで逃げ回りたいのだろう私は。

「おばあちゃんは、私のせいで死んだ」
「…」
「私が居なかったら死なずに済んだ、よね」
「…そうだな」

否定しないディアボロの優しさにホッとした。これで否定されていたら、逆に落ち込んでいたと思う。天の邪鬼な性格をよく知っているディアボロだからこその肯定だ。

「お母さんと、お父さんも私をかばって死んだ」
「ああ」
「…私は、周りを不幸にする、のかな」

ジワリと滲んだ涙をディアボロが拭う。私はそれを拒絶しなかった。もう、彼を消してしまうことはない、と感じたから。隠していたかったものを見つけてしまったから、もう、なにも隠す必要はない。

「お前が周りを不幸にするかどうかは分からない」
「…うん」
「でも、お前の両親はお前を守って死んだことを後悔はしていないだろう」
「そう、かな」
「ああ。…死に瀕した際に、自分よりもお前を守りたいと思ったんだ。守り切れたことを誇りに思っても悔みはしないだろ」
「…」
「お祖母さんだって、お前が傷つかないようにと思っての行動だった」
「…う、ん」
「お前が無事で、喜んでると思う」

もう、何も言えなかった。ディアボロの言葉にただ頷く。

「お前の不幸を悲しむことはしても、喜びはしない」

私の頭を抱え込んで抱きしめながら、ディアボロはただ訥々と喋り続ける。

「お前が、自分を責めることは、誰も望んではいない」

堰を切ったように流れ出る涙を、止めることはできなかった。

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