神隠しの少女 | ナノ






「はい、いいですよ」
「…今年も気合が入ってますねえ」
「もちろん。折角なんですから可愛い姿を見せてあげませんとね」

満足げに笑うテレンスさんに引き攣った笑みを返しながら鏡を見る。フリルをふんだんに使った真っ黒なワンピースの裾はふんわりと広がっていて、ちょっとしたブランド服にも劣らない。部屋から出ると、だらしなく座っていたポルナレフが振り向いた。

「おいおい、いきなり集めさせといてまだなんの説明も――って珍しい格好してんな」
「まあねー。似合う?」
「まあまあ」
「良く似合ってるよ」
「ああ、可愛らしいな」
「なんとプリティなんじゃ!おじいちゃんと写真撮ろう!」
「あ、パパ狡いわ!私も一緒に撮ってー!」
「落ち着け。つうかその格好…喪服の様に見えるが」

多種多様な反応に苦笑しつつ窓から外を見る。もう日も沈み空は藍色に染まっていた。ガチャリと音がして振り向くと、DIOが黒いスーツを着て立っていた。

「相変わらず憎たらしい程にイケメンだな君って奴は!」
「ふん、当たり前だろう」

鼻で笑うDIOに飛びつけば軽々と抱き上げられる。折角だからと手を伸ばしてオールバックの様に前髪を掻き揚げた。

「…うん、これは止めておこう。鼻血出ちゃうかもしれない」
「シャツに血が付くから絶対に止めろよ」

はーい、なんて言っている私にテレンスさんが近づいてきた。

「ああ、茉莉香。もう一つ」

花瓶から百合を一厘抜き出して器用に髪に括り付けられる。私の髪を優しく撫でてにこりと笑った。

「はい、可愛い。あまり遅くならない様に気を付けるんですよ。DIO様もよろしく頼みました」
「言われるまでもない」
「はーい。じゃ、承太郎たちも行こうか」

不思議そうな顔をする承太郎たちを一所に集めて、手を出させる。重なった手に触れて――私たちはお墓の前に立っていた。

「ここって…」
「私のおじいちゃん達のお墓だよ。さっきの承太郎の言葉は大正解。今日はおじいちゃんの命日だったんだー」

DIOから花束を受け取って墓前に置く。白い花束が月の光を受けてキラキラとしていた。

「毎年DIOに付き合ってもらってたんだけどね。今年は皆にも来てほしくて。…私の家族と大切な仲間です、って。そろそろちゃんと紹介しとかないと怒られちゃいそうだから」

目を閉じて手を組む。おじいちゃん、おばあちゃん。彼らが私の大事な家族と、仲間たちです。色々大変なこともあったけど、今こうして皆で一緒に居ることが出来て。私は、幸せにやってます。
肩に手を置かれて目を開くと、ジョセフおじいちゃんが隣に立っていた。

「ワシがこの子を引き取ったせいで、辛い思いを多くさせました。だがそれでもワシはこの子の祖父になれて、幸せだと胸を張って言えます。…この子を育てて下さって、ありがとうございました」
「私も、こんな可愛い子の母になれて幸せです。力の足りない母かもしれませんが…この子を大切に育てます」
「ジョセフおじいちゃん、ホリィママ…」
「考え込みすぎて空回っちまう所もあるけど、こいつはいい奴で大事なダチだぜ!」
「ポルナレフ、こんな時くらい敬語を使え。…茉莉香は僕にとって初めての友人で、大切な仲間です。彼女が困るようなことがあったら、今度こそ僕は力になって支えられるよう頑張ります」
「あなた方のお孫さんは立派に育っていますよ。本来は守るべき立場の私たちが守られてしまうほど。これからは私たちが守ります」
「アギッ!」
「…皆」

こんなの、狡い。映画やドラマじゃないんだからこんな所で私を泣かせに掛かってどうするんだ。惚れるぞ!
そんな風にお茶らけた考えに逃げようとしても、体は素直なもので。涙が滲んできてしまって思わず俯く。そんな私の頭の上に大きな手が乗せられて。

「…生意気で、自分勝手で。素直に守られてりゃあいいのにそれじゃあ満足できねえ我儘な奴だ。だがそれでも。こいつは俺にとって大事な、家族だ。これからは俺が守る」

承太郎の言葉に堪えきれなかった涙が一粒落ちる。私は本当に幸せ者だと、痛いほど実感して泣いているのに笑ってしまう。

「笑いながら泣くな、気持ち悪い」

そんな私に辛辣な言葉を浴びせつつDIOが私を引き寄せる。

「こいつはこのDIOが大切に大切に扱ってやろう。他の奴らの守るとやらが口先だけだろうとこのDIOは違うぞ。最後のその一瞬まで、離しはしない。安心して眠っているがいい」
「…なんで君はそう、周りを煽るような物の言い方しかできないかなあ」

べしりと厚い胸板を叩きつつ、噛みしめる。この幸福を、待ち望んでいたこの一瞬を。

「私は、幸せだよ。大切な人たちがこうして側に居てくれるから。心配なんて、要らないよ」

泣き笑いみたいな顔でそう告げる。次の瞬間強い風が吹いて、花弁が散った。その風の音の中に、笑う二人の声が聞こえたのはきっと勘違いじゃあない。



今日も明日も明後日も
私は、きっと幸せです

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