神隠しの少女 | ナノ






「と、まあこんな感じの旅だったよ」
「…そうか。まあまず一言いうとすれば、このッ馬鹿が!」

ゴツン!っと大きな音を立てて落とされた拳骨に頭を抱える。痛すぎて言葉が出てこない。

「命を粗末にするとは何事だ!」
「ギャングのボスとは思えないようなお叱りが飛び出て来たぜ!」
「十把一絡げの他人とお前を同列にしてたまるか!」
「デレは嬉しいけど拳骨は酷い!」

これでも大分手加減はしたぞ、なんてぶちぶちと愚痴るディアボロに誤魔化す様に笑いかける。

「…反省が見えないようだな?」
「滅茶苦茶反省してマス」
「全く。…まあ、頑張ったな」

くしゃくしゃと頭を撫でられてへらりと笑いが込み上げる。それにため息を吐くとディアボロはソファーに座り込んだ。

「で、DIOだったか?そいつらと仲間は今後どうなるんだ?」
「ああ。それなんだけどねえ…」

一応、彼らの処遇を財団と交渉するための材料は幾つか準備していたのだ。旅が始まる前のDIOの賭けとか。スタンドから紙を取り出してまじまじと眺める。そこに書いてあるのはただ一文。
『負けた方は勝った方の言うことを聞く』
それだけ、なのだ。正直これで交渉に臨もうと思った私馬鹿だろ。いや、これは切っ掛けみたいな使い方をする予定だったからこの程度でいいと言えば良かったのだけれど。

「私が寝ている間にジョセフおじいちゃんが全部やっておいてくれたんだよねえ」

DIOを筆頭にスタンド使いは一度財団で拘束。いくらかのデータ収集の協力や契約を交わすこととなっている。勿論非人道的な実験やらなんやらは無しだ。その後の事は色々議論が有ったようだが、結局驚いたことに、アメリカの裏社会を牛耳る方向になっているらしい。
まあいくら財団が清廉潔白な身の上だとしても難癖付けてくる馬鹿はいる訳で。そう言った些末事を無くす、という役割が一つ。そしてスタンド使いの多くはやはり裏社会に居たりするわけで。スタンド使いは引かれ合う、じゃないが根無し草のスタンド使いを集めてデータを収集する、という役割も持つこととなった。
まあ彼らが今更日の目に当たる所には居られない、という判断もあったのだろう。ばらけさせて要らぬ危険を生むよりは、DIO…率いては私やジョセフおじいちゃんがそれなりに監視しつつ統率を取らせて利を生ませるわけだ。やっぱりでっかい財団なんかを取り仕切ってる人って器がデカいと言うか視点が広いと言うか。汚い仕事は全部こっちに任せられる上に恩まで売れるスマートなやり口に拍手喝采。
ちなみにDIOは大いに乗り気で、せっせとテレンスさんと一番に乗っ取る組織を見繕っている。将来的には表舞台でも稼げるようにする予定らしい。…初めっから武力じゃなくて知力を使っていれば十分一国一城を築けたんじゃあないだろか彼。

「結構準備頑張ったんだけどなあ。まあほぼ私の望む通りになってたからいいっちゃいいんだけど」
「ちなみにどんな準備をしてたんだ?」
「えー?…基本的に財団のトップと幹部の家庭調査かな。それだけあれば大概の無理は通ったでしょ」
「…性質悪いなお前」
「君の妹だからねえ」

私のスタンドと、DIOを筆頭に荒事に慣れたスタンド使いが多数。捕まえようにもどこにでも逃げられて、どこにでも現れる。そんな集団に家族の情報を掴まれても強硬な姿勢を取れる人間は多くはあるまい。そこに先程の念書を持った私が統率を取るとゴリ押しする予定だったのだが。

「身内が危険に晒されるかもしれない、って恐怖は私が一番よく知っているからね」

弱みって言うのは、全力で付け込むためにあるんだよ。ま、それも全部使わずに終わってしまったわけだけども。
差し出されたコーヒーを一口含みつつ、これまた差し出されたクッキーを手に取る。手作りの素朴な味わいのクッキーは焼き立てと言うこともあって温かくて美味しい。

「やっぱクッキーは君の手作りが一番だなあ」
「当たり前だ。この俺自ら焼いたのだからな!」

胸を張るディアボロに適当に拍手を送りながら、その辺に置いてあった書類を眺める。結構手広くやっているようだ。とはいえまだまだ私の知っている組織に比べれば小さい。これから荒事も多くあるのだろう。

「ディアボロ、無理はしないでね」
「…お前よりはしないさ」
「そりゃよかった」

肩を竦めるディアボロにケラケラと笑って、一度大きく伸びをする。

「もう日本に戻るのか?」
「いや、まだ財団の検査とかあるし。…それにほら、今日命日だから」
「ああ、そうだったか…もうそんな時期だったんだな」
「うん。ディアボロも来る?」
「あの島に俺が顔を出せると思うか?」
「そうでしたそうでした。まあとりあえずDIOは一段落したら顔合わせして貰おうかなあ。お互い損は無いでしょ」
「まあ、そうだな。だが俺自身が顔を出すというのも…」
「この引きこもりめ!」
「それが功を成して今の俺が有るんだぞ?」
「はいはい、そーですね。ま、とにかくまた来るから。元気でね」
「ああ、お前もな」
「ん」
「彼らに、よろしく言っといてくれ」
「あいよー」

軽くハグをしてお互いの頬にキスを送る。屈んだディアボロと額を合わせて小さく笑い合うと私は部屋から姿を消した。

[ 1/2 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]