神隠しの少女 | ナノ






「三日、三日ねえ…」

私が自殺行為をしてから三日が経っているらしい。記憶との齟齬になんとなく納得がいかないが、彼らが三日と言うからにはこちらでは三日経っているのだろう。大体私の体はどこにもいかずこのベッドの上に寝ていたというのだ。ならば仗助と会った私は一体なんだったのだろうか。スタンドを出すことも、彼に触れることも出来た。掴んだ腕の温かさを私はちゃんと覚えているのに。…まあ、分からない事を考えていても埒が明かない。とにかく私は生きて彼らの所に戻ってきたのだから、それでいいんだろう。後は仗助との一件やらが夢でない事を祈るのみだ。
そこまで考えて、先程からずっと隅に佇む承太郎に目が行く。視線が合うとサッと逸らされてしまった。…茉莉香悲しい。

「承太郎」

名前を呼べば承太郎の肩が揺れる。…あれえ、こんな情景さっきも見た気がするぞー。

「怪我の具合はどう?」
「…もう、問題ねえ」
「そっか、良かった。…君が無事で、本当に良かった」

顔を上げた承太郎の瞳が揺れる。デジャヴというには鮮明過ぎる先程のDIOの一件と重なって、思わず吹き出してしまった。

「…何笑ってやがる」
「いや、だってさあ。なんでそんな、途方に暮れた子供みたいな顔してるの」
「俺は、お前を裏切った」
「へ?」

思いがけない承太郎の言葉に首を傾げる。私承太郎に何かされたっけ?

「…そいつを連れて帰ると約束したのに、果たせなかった。結局お前をこんな目に遭わせて」
「…真面目だなあ」

正直な感想がぽろりと口から零れる。承太郎が呆気にとられた様に目を見開いた。

「承太郎が約束を守ろうとしなかったわけじゃあないでしょ?誰にも予想がつかないようなことになってしまった、それだけ。別に承太郎が悪いわけじゃあないじゃない」
「お前は、それでいいのかよ!」
「まあ、DIOがあれで本当に死んでたらこうはいかなかったけど…」

肩に乗る頭を一撫ですれば、グシッと擦り付けてくる。猫の様だなあ、なんて思いつつ頬が緩んだ。

「今こうしてDIOは生きて私の側に居るし。承太郎も、皆も生きて元気に笑ってくれてる。…これ以上望む物なんてないし、それでいいじゃない。結果よければすべてよしって言うでしょ?」

腑に落ちない、と承太郎の顔にでかでかと書いてある。変な所で生真面目で一本気だなあ、としみじみと思う。勿論そんな所も大好きなわけなんだけどね!

「承太郎。何度も言ったし君が分からない様ならこれからも何度でも言うけどね。私は君を信じてるよ。君が私との約束を守ろうと頑張ってくれたことも、何もかも」

おいでおいで、と手招きをすれば少し躊躇って近づいてくる。手を精一杯伸ばして、頭に鎮座する学帽を剥ぎ取り出てきた黒髪をぐしゃぐしゃと撫でまわす。

「ありがとう承太郎」

私の言葉に承太郎の顔がくしゃりと歪む。膝に置いていた学帽を取り返して深々と被った彼に、くすりと笑いが零れた。

「…お前本当に12・3のガキかあ?鯖読んでんじゃねえの」
「いい意味で達観してるって言って欲しいなあ」

ポルナレフの言葉に心の中でまあ、中身は三十路過ぎてるしな!と一笑に付しておく。

「あ!茉莉香起きてんじゃねえか!」
「あ、ラバーソール。おはよー」
「おはよー、じゃねえよ!人がどれだけ心配してたんだと思ってんだってーの!」
「ごめんご」
「謝罪の意図が一ミリも見当たらねえ!…あー、執事さん達も首長くして待ってたし呼んでくるか」
「どう考えてもここに入り切るとは思えない!」
「んじゃお前がこっち来いよー。車椅子いるか?」
「DIOが居るからいらん」
「…後にも先にもDIO様顎で使うのはお前くらいだろうなあ」
「ま、ね」
「んじゃ、早く来いよー!」
「はいはい」

慌ただしく去って行くラバーソールを見送ってから、後ろのDIOを振り向く。何を言わずとも分かっているのか、私を抱いたまま立ち上がった。久々の視点の高さに少し体が硬くなる。

「この視界の高さも久しぶりだなあ」
「そうだな」
「ほらほら、皆も行こうよ」

ぞろぞろと移動した先には、館の皆が揃っていて。マライアさんやミドラーさんが泣き出したり、歓声が上がったり。愛されてるなあ、なんてほっこりする間もなく、ソファーに下ろされるとわっと囲まれる。もみくちゃにされる隙間から、まだ複雑なのか微妙な顔をする仲間たちが見えた。
声を掛ければ、ポルナレフが仕方ねえなあとばかりに肩を竦めてから飛び込んでくる。一部から大きな悲鳴が上がった。ポルナレフを引きはがした典明君がアヴドゥルさんと一緒に叱り始める。テレンスさんも騒ぎ過ぎな人たちに拳骨を落とし始めた。
呆れた様にコーヒーを啜るデーボさんとンドゥールさんの所にジョセフおじいちゃんが混じる。そんな光景に目を細めていると、くしゃりと頭を撫でられた。顔を上げると承太郎が優しく微笑んでいる。その手を取って、隣に座るDIOに頭を預ける。
皆の処遇やら、複雑な感情やらまだまだ色々厄介ごとは多いだろう。けれどそれもきっと大したことではない。この二か月近くにも及ぶ旅と比べれば。
幸せな喧騒の中、私はそっと目を閉じた。




大団円
努力が実ったと胸を張ってもいいでしょう?

[ 2/2 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]