神隠しの少女 | ナノ






















白い、白い空間。




ふわふわとしたこの感覚には覚えが有った。澄み切った青空みたいな目をした、シャボンの匂いのする彼と出会った場所だ。
私は死んだのだろうか。切り裂いた筈の喉に手をやれば、傷一つ付いていないようだ。そのくせ幾つかの痣や擦り傷は治ってないらしく時々存在を主張するかのように痛んだ。どうせ治すなら全部治してくれればいいのになあ、なんて誰に言うでもなく文句を零しつつ寝転がる。相も変わらず柔らかな感触に息を一つ吐いた。
彼らは、どうなっただろうか。最後に見た光景が幻でなければDIOは一命を取り留めた筈だ。承太郎たちが彼の処遇をどうするかは分からないが…私があそこまで身を挺して守ったのだ、そう酷いことはしないだろう。
私は、彼ら両方を守るという使命を、果たした。嬉しくて仕方がない筈なのに、DIOの泣きそうな顔が脳裏にちらついて離れない。
あんな顔をさせたかった訳じゃあ、ないのに。

背後に人の気配を感じて振り向く。またシーザーだろうか。それともお迎えなら身内の誰かかもしれない。そんなことを考えていた私の目に飛び込んできたのは、金髪の美しい女性だった。…見覚え無い人が来ちゃったよ!

「あの…」
「ありがとう」
「はい?」

とりあえず声を掛けたらいきなり礼を言われてしまった。……少し考えてみたものの、私はこの人に礼を言われるような覚えはない。っていうかやっぱり見覚えがない。こんな美人さんなら一度会ったら覚えていそうなものなのに。

「人違いじゃあないですか?」
「あの子を救ってくれて、ありがとう」

…話が通じねえ!今までに数度会った話の通じない女性達を思い出して一瞬背筋が冷えたが、警戒するまでに至らなかったのは彼女から敵意と言ったものを感じないからだ。整った顔に浮かぶ微笑みは、確かに感謝と、慈愛に溢れている。そう、それはまるでホリィママが私や承太郎に向ける様な――。

「私は、あの子を守ってあげたかった。何時だって側に居て支えてあげたかった。苦しんでいたらすぐ隣に飛んで行って抱きしめてあげたかったのに」

微笑みながらも悲しげに眉を下げた女性は、小さく首を振った。

「愛していたのに、あの子を私は一人にさせてしまったの」

あの子とはいったい誰だろう。私が救ったらしいあの子とは。女性と初めてちゃんと目が合う。切れ長のすっきりとした美しい眦。意志の強そうなその顔立ち。

「あなたは、まさか」
「あなたでよかった。あの子を愛してくれて、守ってくれてありがとう。側に行きたいという願いを、あの子に寂しい思いをさせたくないと…叶えてくれたのがあなたで、本当に良かった」

一人じゃない。夢で幼い私が言ったあの言葉は。

「あなたは私、私はあなた」

目の前の彼女の姿がノイズが入る様にぶれる。重なる黒いローブと顔を覆う白い仮面は、酷く見覚えのある姿で――。

「私に一つ恩返しを、させてちょうだい」

伸びて来た白い指先が、私の額に触れる。

「あなたは、あなたは!」

目の前が真っ白になって、ぐるぐると全てが遠ざかる。

「幸せになって、あの子と共に。私の可愛い子――ディオ」

それは、私の聞き間違いではなかったはずだ。

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