神隠しの少女 | ナノ






俺の言葉に茉莉香が一度目を瞬かせる。ついで何時ものようにヘラりと笑った。

「承太郎はここでお留守番。皆が戻ってきたら全員分の肉の芽抜くわけだし…ゆっくり英気でも養っててよ」
「お前が!…お前が危ない目に遭うかもしれねえのにただここに居ろって言うのか!」

思わず声を荒げれば、茉莉香は小さく眉を顰めて息を吐いた。

「あのね、承太郎。心配してくれるのは嬉しいよ。すっごい嬉しい。でもね、今回ばかりは君を連れてってもやってもらうこともないし、むしろ不安要素が増すだけなんだよ?今は君達の抵抗の意志を奪うためにDIOは肉の芽を使ってるけど…もっと簡単で、荒っぽいやり方なんていくらでもあるんだ。DIOが今その手を使ってないのは幸運なくらいにね。万が一君がDIOに捕まってごらんよ。私のスタンドは決して遅くはないけど、DIOが君の腕の一本も切り取る位の隙は与えてしまうかもしれない。そうなったら私は打つ手がないんだよ。まだDIOが油断をしている、今しか皆を連れ帰るタイミングは無いんだ。…分かってくれるよね?」

小さな子供に言い聞かせるように、ゆっくりとした口調。これではまるで自分がダダをこねている子供の様だ。
分かったと、納得しなければいけないのだろう。仲間全員を連れてくるだけでも簡単なことではないのだ。スタープラチナはラバーソールやンドゥールの様にその場に行って手助けが出来る様な能力ではない。けれど自分はまた、力になれないのかと歯がゆい気持ちが抑えきれない。守ってやりたいとそう思っているのに、いつだって守られるばかりではないか。
何も言わずに俯く俺に、今度こそ茉莉香は大きくため息を吐いた。

「承太郎」

名前を呼ばれても顔を上げない俺に茉莉香が手を伸ばす。小さな手が、俺の手を掴みポンポンと軽く叩いた。

「承太郎。大丈夫だよ。ちゃんと全員連れて戻ってくるから」
「…ああ」
「承太郎、君は私を守りたいって言ってくれたよね。守られたいんじゃないって。でもね、それは私だって同じなんだよ。私は大切な君を、彼らを守りたい。守られてるだけじゃあ駄目なんだ」
「ああ」
「私は君を信じた…信じてる。だから承太郎。君も私を信じてほしい。さっき肉の芽を抜く時みたいにね、お姫様?」

最後だけ茶化す様な口調でウィンクまで付ける茉莉香の頬を抓る。間抜け面に少し肩の力が抜けた。

「誰がお姫様だ馬鹿」
「いいじゃないお姫様。世の女性の憧れだよ?」
「俺は女じゃねえよ」
「そりゃそうだ」

ケラケラと笑う茉莉香から目を逸らすと、ラバーソールやホルホース達が生温い笑みを浮かべているのを見て、頬が引き攣ったのが分かった。

「仲がいいのは結構だが…あんまり時間かけると日が暮れちまうぜ?」
「そうそう、面倒なことはさっさと終わらせてえんだけどお?」
「まあ仲がいいのは結構なことだがな。ああ、茉莉香…頬が赤くなってるじゃあないか。承太郎はもう少し力加減を覚えるべきだな」
「うるせえ!」
「っていうかンドゥさん本当に目見えてないんですよね…?」

頬を押えつつ苦笑する茉莉香にンドゥールが謎めいた笑みを浮かべる。それを見て何度か腕をさすったのち、茉莉香がさっと顔を上げた。

「さ、本当にそろそろ行こうか。お二人とも準備はいいかな」
「ああ」
「ま、なんとかなるっしょ」
「おけおけ。じゃあ残りの皆さんはお留守番お願いしますねー。周囲に怪しい人影とかあったら適当に排除しといてください」
「あいよ」
「気を付けて行けよ」
「あいあい。…承太郎」
「なんだ」
「行ってきます」
「…ああ、行ってこい」

敬礼なんてふざけたポーズをする茉莉香の頭を乱暴に撫でる。襟や袖口から覗く肌にいくつも痣や切り傷があるのを見て、止めたいと強く思う。しかし、それはしてはならないことで。彼女にばれない様強く拳を握りこむことで、喉元まで競り上がる声を抑えた。



無力な自分を噛みしめる
信じて任せるというのは辛いことだ

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