神隠しの少女 | ナノ






途中で"皆"を拾い承太郎の待つ宿に戻る。全身を襲う倦怠感に負けてベッドに倒れこむと承太郎が駆け寄ってきた。

「おい!大丈夫か!」
「…ん。ごめん、そこちょっと空けて…」

一歩引いた承太郎を確認して、スタンドを解除すると引き攣った笑みを浮かべたラバーソール達が出てくる。

「ちょっ!茉莉香これ早く何とかしてくれよ!中から呪詛じみた声が聞こえてきてすげえ怖いんだけど!」
「茉莉香!ここは一体どこなんですか!」
「ラバーソール…お疲れ様、ありがとね。テレンスさん説明は追々…って言うか両脇からステレオ攻撃するの今は本当に勘弁してください…」

泣き言を言うラバーソールと詰め寄ってきたテレンスさんに更に体力を削られつつ、巨大なスライム状のイエローテンパランスと向き合う。ラバーソールの言うとおり、中からヴァニラの雄叫びが聞こえていてますますゲッソリとしてしまう。

「出せ!出さんと…!」

ラバーソールに一度頷くと、イエローテンパランスが解除される。どちゃりと一塊になって出てきた中から、素早くヴァニラを見つけてスタンドの中に入れる。合掌しているラバーソールの肩を一度小突いて、私はまたベッドに倒れこんだ。

「…承太郎、後よろしく」

それだけ言うと、まだ何か言っているテレンスさんの叫び声を聞きながら私は意識を手放した。



肩を揺すぶられて目が覚める。ずきずきと激痛を訴える頭をなんとか持ち上げると、先程とは違い意志を持った彼らの姿が飛び込んできて、何とか薄くとも笑えた。

「茉莉香…随分と迷惑をかけた様じゃな」
「ん…皆が無事で、よかったよ」

気が抜けたせいか、余計痛みに拍車がかかる。吐き気すら催す痛みに気を抜くと意識を持って行かれそうだ。しかしなんとかそれを抑え込みながら、彼らの方に顔をもたげる。

「それで、今は、どういう、状況かな」
「もう間もなく日が落ちる!DIOはワシらを追ってくるじゃろう」
「一塊で居るよりは二手に分かれるべきだと考えているんだけど」
「そう…なら、伝えておくことが、有る。DIOの、スタンド能力が、分かった」

私の言葉に張りつめていた空気が更に引き絞られるような感覚に陥る。

「彼の能力は、時を止める。時を、支配するスタンドなんだ」
「時を、支配するだと…!?」

驚く彼らに、出来る限り簡潔に説明する。DIOのスタンドの攻撃範囲、止められる時間の長さ。皆の顔から血の気が引いていくのが傍から見ていても分かる。

「時を止めるって…そんなんどうすりゃいいんだ!」
「落ち着けポルナレフ!」
「でもよお!」
「…考えている時間は無い!既に日は落ち始めておる!」
「やるしかない、ってことですね」
「元から奴がどんな能力を持っていようとやるしかなかったんだ、奴をぶちのめす!それに変わりはねえぜ」
「…ああ、そうだな。二度も肉の芽を植えられた恨み!晴らしてやるぜ!」

頷き合う彼らの顔には隠しきれない不安が滲んでいる。しかし、彼らならやってくれると私は信じていた。…いや、信じたい。

「私はもう限界で、力になれそうも、ないから…皆を信じて、待ってるよ」
「…ああ」
「承太郎…」

承太郎を見上げ私は言葉を探しあぐねる。彼を殺さないでと、そう言いたい。けれどそれがもし承太郎の敗因になってしまったら。肉の芽を植えられていた彼を思い出して私は何も言えなくなる。
どちらも欲しい、どちらも守りたい。我儘な私の願いは、ここに来てどっちつかずの、狡い言葉しか浮かんでこない。DIOが居たら殊勝なことだと笑うだろうか。私には好き勝手言ったくせにと。
俯いた私の頭を力強い手が、ガシガシと撫でる。乱暴な手つきに一瞬忘れていた吐き気が思い出されて思わず口に手を当てる。

「悪い大丈夫か」
「ん…」
「お前は寝てろ。…負け犬になったDIOの野郎連れて戻ってくるからな」
「…そりゃ、楽しみだね」

手が離れ、承太郎が私に背を向ける。扉に手を掛けた彼に――。

「承太郎!…頑張って」
「…ああ」

扉から出ていく彼らを見つめながら祈った。どうか彼らが、無事に全てを終えられますようにと――。

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