神隠しの少女 | ナノ






「まさか全員揃ってるとは思わなかったなあ」

机を挟んで対峙する三人にへらっと笑いかける。しかし誰もニコリともしてくれなくて少し悲しくなった。三人…DIOとヴァニラ、そしてテレンスさんの後ろに居る仲間たちは無表情でこちらを見ていた。まるで精巧な人形のような彼らに思わず顔が歪む。

「一人一人ばらけていたら貴様の思うつぼだからなあ」
「ま、そりゃそうだね」

ニッと笑ったDIOに肩を竦める。…確かに皆がそれぞれバラバラに居たら連れて行くのは容易だっただろう、普段なら。しかし先程の承太郎の一件もあって疲れ切った状態の私としてはそんな何度もスタンドを使える自信はない。そんな中この状況はありがたいとも言えた。勿論彼らを掻い潜るのは至難の業だと分かってはいる。

「…承太郎の姿が見えんな。肉の芽は抜けたのか?」
「さあ。どうだろうね?」
「ふん、それよりも茉莉香。私としては試しておきたいことが有るんだがなあ?」
「それに付き合う義理は今は無いなあ」

組んでいた腕を下ろしたDIOがワールドを背後に出す。力強いその姿に自然と体が強張った。私もスピリッツ・アウェイを発現する。空気がまた一段と、張りつめた。

「まあそう言うな」
「いやいや、私は…皆を連れに来ただけだから、さ!」

床を蹴ったDIOをスタンドを駆使して避ける。そのままジョセフおじいちゃん達に触れようとしたが、ヴァニラが勢いよく足を蹴り上げたせいで上手く行かない。牽制だったのかギリギリ避けれたからいいもののお前の足も十分丸太みたいなもんだからな!
ワールドの拳によって壁が崩れる。その中に飛び込むと案の定DIOも付いてきた。動くたびにギシギシと関節が痛む。頭痛といい幾つもの傷といい満身創痍とはこのことだろうか。
DIOが所構わず殴りつけるせいで床も壁もボロボロだ。後でテレンスさんに叱られても知らないからな!

「…遊びはそろそろ終わりにしようか」

土埃の立つ中、曖昧な視界の中でDIOが不敵に笑った。時が、止まる。一歩一歩近づいてくる彼に、私は身構えたまま動かない。ガシリと痛みを伴うほど強く腕を掴まれて、私の顔が歪む。

「やはり…時の世界に入門していたのか。全く、お前という奴は…本当に私を退屈させんな」
「まさか時を止めるとは驚いたよ」
「ほう、それも分かっていたか。それにしても何故逃げようとも…」

一度瞬きをしたDIOが息を飲んで後ろを振り返った。しかし、それは少しばかり遅かったようだ。既に時は、動き出す。

「なっ!」

土煙の向こうで息を飲んだ声がした。テレンスさんがヴァニラを呼ぶ声が聞こえる。私の腕を掴んだままDIOは一足とびに先程の部屋に戻り、大きく舌打ちをした。
床は元々存在しなかったかのように大きく口を開け、下の階まで吹き抜けのような状態になっている。ジョセフおじいちゃん達も、ヴァニラ達もそこにはおらず、階下からは忙しない足音が聞こえていた。

「茉莉香、貴様!」
「言ったでしょう?私は皆を連れに来ただけだよ。さっきは"出して"も"入れ"なかったからね。床を消せるなんて忘れてたかな?」

ニヤリと笑う私にDIOが苛立たしげに私の腕を離し、行こうとする。今度は私がDIOの腕を掴み引き留めた。

「何処に行こうって言うんだい?」
「…ジョースター共と、あの馬鹿どもに仕置きをせねばなるまい?」
「やだなあ、それを私が許すとでも思ってるの」
「ここで、決着でも付けるつもりか?」

目を細めるDIOにふるふると首を振る。

「決着は私が付けられるようなもんじゃあないでしょう?君にしても、承太郎たちにしても。例え私が今君の首をその体から切り離そうとも、納得なんかしないくせに」

そう、君と彼らの因縁に決着を付けられるのは。

「君は彼らに負けなきゃ諦められないでしょう?」
「私が、奴らに負けるとでも?」
「前にも言ったじゃない。私はね、あの子を。承太郎を信じているんだよ」

彼の強さを、そして…なんだかんだお人好しな優しさを、ね。

「…お前も諦められんようだな、奴らがこの私の手によって叩きのめされるまで」
「そうだね」

にこりと笑えばDIOはそれはもう苦々しい顔をする。そんな顔を見るのは久しぶりだなあ、なんて呑気な事を考えて私は彼の腕に額を寄せた。ピクリと揺れた肩に手を伸ばし、宥めるように腕を撫でる。

「そんなに奴らが大切か」
「私の命よりはね。まあ、それは君も同じだけれど」
「詰まらん愛想は要らん」
「愛想じゃないのになあ。でもね、そうだなあもしも君か、承太郎たちの命かどちらかしか選べないとしたら」

万が一、起きては欲しくないけどそんなことになったら。

「私は承太郎を選ぶだろうね」

顔を上げてDIOを見る。その顔は傷付いた様子も、悲しんだ様子もない。ただ強張った彼の肩を、優しく撫でる。

「それで、君と一緒に死んであげるよDIO。私の命を君にあげる。君は案外寂しがり屋だから、一人になんかさせないよ」
「…死んであげるとは偉そうだな。死なせてくださいの間違いだろう」
「はいはい。まあでもそんなことにならないように後少し、頑張るけどね。君も彼らも守るよ。命に代えても」

微笑んだ私の頬をDIOの手がなぞる。甘えるようにそれに一度すり寄って、私は彼の掌にそっとキスを落とした。

「大好きだよDIO」

だからお願い、私から君を奪わないで。
私は彼が何かを言う前に、彼の眼前から消え失せた。

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