神隠しの少女 | ナノ






「茉莉香!」

いきなり現れた私に承太郎が酷く驚いたような顔をしていた。しかし、私もかなり驚いている。…え?私時の世界に入門しちゃった感じ?いやいやいやまっさかー!だって今時止めようとしても止められないし!
訳の分からない事態に思わず頭を抱える私に承太郎が慌てて近寄る。

「おい、大丈夫か!?この怪我…どうしたんだ!」
「え、あ、いや…DIOと喧嘩って言うか…なんていうか…」
「DIO様と?」

…承太郎が、DIO様。先程の現象に脳みその処理が追いついていないのに、強かに、そりゃもう強かに追い打ちをかけられた気がする。いっそ現実逃避をしてしまいたいが、扉の向こうから聞こえる足音に一気に冷静になった。
訳の分からないことでテンションが上がっていたが、今はそんな状況じゃない。

「承太郎、行こう!」
「行くってどこにだ?」

肉の芽のせいかここに居ることに疑問を持っていないらしい承太郎が訝しげな顔をする。しかし今は事細かに説明している暇はない。

「ああもう!君は囚われのお姫様で私は迎えに来た王子様だよ!」

思わず飛び出た言葉に更に不思議そうにする承太郎の手を取って私は急いでスタンドを発動した。


「茉莉香!承太郎じゃねえか!上手く行ったのか!?」
「まだ」

目を丸くしたホルホースさんに急いで何枚かのメモを渡す。

「ここに他の協力者が居ます。この順番で急いで連れてきてください。…裏切ったら」
「分かってる!分かってるよ!」

慌てて出ていくホルホースさんを見送って、承太郎と向かい合う。一言声をかけてから前髪を上げると、案の定肉の芽が付いていた。…分かってはいたがテンションの下がる光景である。
…日は、もう昇っていた。これでDIOが追ってくると言うことはないだろう。
もしもの為に来てもらっていた協力者達が集まるまでどれくらいだろうか。財団にDIOの手先が居る以上、見張りや敵を分散するためにホテルは皆別々に取って貰っていた。戦力として高い人の所から回って貰っているから、ここに来るまでに殆ど形はついて居る筈だ。向こうの戦力で怖いのはヴァニラとペットショップくらいの筈だし。彼らがいつ出てくるかがキーポイントだろう。
…心配事は色々とあるが、今はとにかく承太郎をどうにかしなければ。
手段はもう考え付いている。後は実行できるか否か…いや、実行は可能だ。しかしその後私が動けるかどうか…。

「だー!考えてる暇はない!覚悟を決めろ!準備は出来てる!」

声に出して自分を鼓舞すると、私は承太郎の手を掴んだ。

「承太郎!私の事信じてくれる!?」
「…ああ、何時だって信じてるに決まってんだろ」

…くそう、いい笑顔で言って欲しいこと言ってくれるじゃないか。そう言われたら、やるしかない!

日の差し込む空間の中承太郎と向かい合う。ここまではそれなりに慣れてるし、イメージの形成も出来てたから疲れはほぼ無い。…ここからが肝心だ。横に漂うスピリッツ・アウェイを一度見て、目を閉じる。一気にどっと背中が重くなった。脳神経が焼けてるんじゃないかと思うような、熱い痛みが頭を駆け巡る。

「…頼んだよ」

頼もしい姿――スタープラチナに変わった彼女の力を借りて承太郎の肉の芽を引っ掴む。うぞうぞと腕の中を這ってくる感触に顔を顰めながらも、丁寧に、しかし迅速に引き抜いた。襲いかかってくるそれを、日に当てる。…スタンドで作りだしたものだったので不安だったが、無事に灰になったのを確認して息を吐いた。集中していたお蔭で忘れていた諸々が一気に襲い掛かってきて一瞬意識が遠のきかける。

「茉莉香!」
「…承太郎」
「…すまなかった、俺が不甲斐ねえせいで…!」
「…DIOの事どう思う?」
「…ぶっとばす!」
「…うし、元に戻ったね」

倒れかかったところを抱きとめてくれた承太郎に笑い掛けつつ、スタンドを解除する。まだ皆が戻ってきてないせいで静かな部屋を承太郎が見回した。

「ここは…」
「ごめん…説明は後回しで。ホルホースさん達が戻ってきたら、起こして…」

それだけいって固いベッドに身を横たえる。ここに居ることは多分ばれていない筈だ。行くなら協力者のいるホテルのどれかだと思われるはず…。
ホルホースさんが無事に彼らを連れてきてくれるかは不安だが…とりあえず、一番の心配事は終わった。体中を蝕む痛みと倦怠感に顔を顰めつつ、私は大きく息を吐いた。




さあ、反撃開始だ
その前に、少しだけ休もう

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