神隠しの少女 | ナノ






さっきまでそこに居たはずの茉莉香が居ないことに気付いたのは店主とその周りの客に話を聞いた後だった。俺達が昨晩質問攻めにしたせいで随分と疲れているようだったから、どこかに座っているのだろうと店を見回してもどこにもいない。

「おい!誰か何か聞いておらんのか!」
「そんなこと言ったって俺ら全員で話聞いて回ってたじゃねえか!」
「落ち着け!店の外に少し出ただけかもしれんだろう!」
「ボクは車の方を見てきます!」
「…日本人のお嬢さんなら先程見かけましたよ」

滑り込む様な静けさで店内に入ってきた男がにこりと微笑む。一番近くに居たポルナレフが掴みかかる様に男に飛びついた。

「なんだと!どこに行った!」
「まあまあ落ち着いて」

ポルナレフの肩を気安く叩くと男は一番近くの席に腰を下ろした。

「俺らはんな悠長にしてる暇はねーんだよ!さっさと言わねえとぶん殴るぞ!」
「おお怖い怖い」
「待てポルナレフ!そいつ少し変だぞ!」
「変とは失礼だなモハメド・アヴドゥル」

名乗っても居ないアヴドゥルの名を言い当てた男に、緊張が走る。

「…貴様、DIOの刺客じゃな?」
「ええ。名はダニエル・J・ダービー。賭け師をしております」
「話は茉莉香から聞いてるぜ」
「ほう、それはそれは」
「…茉莉香の姿が見えんのは貴様のせいか」
「ええ」

隠し立てする気のない男の言葉に一気に空気が殺気立った。

「…素直に話せばちいっと入院する程度ですませてやるぜ?」
「…全く君達は直ぐに暴力で解決しようとするな」

くつくつと笑う男に苛立ちが募る。こうしている間にも茉莉香に何か危機が迫っているのではないかと気が気ではない。

「もういい!さっさとこいつをぶちのめしてジョースターさんのスタンドで探そう!」
「それは無理だな」
「なんだと!?」
「茉莉香は今あるスタンド使いの作りだした空間の中に居る。ホルホース君から聞いたよ、茉莉香が彼女のスタンドの空間に居た時は念写出来なかったらしいじゃあないか。つまり、君達はあの子を探し出すことは不可能、ということだ」
「なっ!」

男…ダービーの言葉に全員言葉をなくす。こいつの言っていることが本当かどうかは分からない。しかし、その可能性は否定できないのだ。

「ちなみにそのスタンド使いがどこに居るのかは私しか知らない。DIO様にすらお伝えしていないからね」
「…望みは何じゃ」
「ふむ…賭けをしよう、といいたいところだが。DIO様もあの子に会えないのに焦れているのかさっさと連れてこいと言われていてねえ。まあ元々館を探していたんだ、目的は叶っただろう?」
「…DIOの元に行けと言う事か」
「ああ」
「ジョースターさん、そのスタンド使いを念写しては…!」
「…無理じゃ。どんなスタンドを使うかも分からん相手をなんの情報もなしに念写することは出来ん!」
「それじゃあ…」
「誘いに乗るしかねえ、という訳か」
「グッド!話が早くて助かるよ」

ガタリと席を立った男がこちらを振り向く。

「さあ、行こうか。…DIO様がお待ちかねだ」

逆光になった男の顔は見ることが叶わない。それが酷く不吉で、この後に起こる出来事を象徴しているように、思えた。




一つの過ち
この男の言葉は全て疑えと言われていたのに

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