神隠しの少女 | ナノ






ディアボロに抱かれて部屋に戻ると一斉に視線が集まる。自然茉莉香の体に力が入ったが、宥めるようなディアボロの手つきに少し安心した。

「…先程は驚かせてすみません」

近寄ってきたジョルノに茉莉香の目が少し見開かれる。紙面から分かっていたけど生で見るとこんな正統派美少年だったとは…!ジョルノの整った顔立ちに茉莉香の頭の中で雷鳴が轟くような衝撃が走る。よくよく見れば部屋に居る人間は皆容姿端麗と言って差し支えがない。男女問わず美しい顔立ちが好きなのは人類の大半がそうだと茉莉香は思っている。だから今自分がこんな状況にも拘らず浮かれてしまうのは仕方ない。誰にともなくそう言い訳しながら茉莉香は目の前のジョルノに微笑みかけた。

「ジョルノ、君、ですよね?」

ジョルノ、と呼び捨てにするのは憚られてつっかえながら君を付けて呼べばジョルノはニコリと笑った。

「ジョルノでいいですよ。それと敬語も要りません。あなたは普段そうしていましたから」
「…うん。ありがとうジョルノ」

にこりと笑ったマリカにジョルノは僅かな優越感を覚える。完全に納得はできないが懐いていたであろうディアボロを除けば今の彼女に一番に微笑みかけられたのは自分である。日頃蕩ける様な優しさを持って名を呼ばれていた父でも承太郎でもなくこの自分。その感情に突き動かされるままに手を差し出せばおずおずと抱き寄せられる。腕の中の小さく柔らかい存在に自分はロリコンだっただろうかとジョルノは危惧してしまった。なんせ遠慮がちに、しかししっかりと自分の服を掴む小さな手に、温かい体温に思わずこのまま育てて愛でたいと思ってしまったのだから。日本では確かこれを源氏計画とかいうのだったか。そんなジョルノの甘く危険な思考を止めたのは尊敬すべき男と己の右腕だった。

「俺は誰だか分かるかな?」
「ブチャ、ラティ…さん」
「正解だ。俺の事もジョルノと同じように接してくれ」
「…うん!」
「俺は分かるかー?」
「ミスタ!」
「なんで俺は最初っから呼び捨てなんだよお!」

笑いながら頭をぐしゃぐしゃと掻き乱すミスタにマリカが悲鳴のような歓声を上げる。子供らしい元気な笑顔を引き出したミスタに苛立つ反面そんな顔も可愛いなあなんて思うジョルノの思考は止まらない。

「マリカさん…仕事がたまってるのに…」
「あ、えっと…ごめんなさい、フーゴ」
「あ、すいません…あなたが悪いんじゃないのに」

思わず愚痴を漏らしたフーゴの頭を小さな手でマリカが撫でる。そんな仕草は幼い頃から変わらないのだなあとジョルノはしみじみと思った。

「…マリカは小さくなっても可愛いわ!」
「俺よりちっせー!」

トリッシュが有無を言わせずジョルノの腕の中からマリカを奪い去る。文句を言う間もなくどこに持っていたのか飴やらなんやらを与えるトリッシュとナランチャに彼は苦笑するばかりだった。

「アバッキオは行かないのか?」
「…ガキって言うのは得意じゃねえ。だが…チビとはいえ女性に何もしねえのは理念に反するな」

相も変わらず理屈っぽいアバッキオはマリカに近づくと膝をついて目線を合わせる。ぱちくりと目を瞬かせる彼女にさり気なく花瓶から抜いた花を差し出した。嬉しそうに礼を言うマリカに場の空気が和んでいたが…次の瞬間茉莉香はDIOの腕の中に居た。

「いつ来るのかと思っていたが…!このDIOを放っておくとはいい度胸ではないか!」
「DIOてめえ…!」

DIOを睨み付ける承太郎の口の端から鮮血が一筋流れている。どうやらスタンドで時を止め、制止しようとした承太郎を殴ってまで割り込んできたようだ。
そこまでして抱き上げた茉莉香の頬は僅かに引き攣っている。
…いくら絶世の美女ならぬイケメンとはいえこれだけデカいと怖い…!駆け寄ってきて自分を挟んでDIOを睨み付ける承太郎と、それに対抗するDIOに抱かれ茉莉香の目に少しばかり涙が滲んだ。いくら彼女が美形が好きだろうと、二メートル近い男二人に抱き上げられれば色んな意味で怖い。しかもその内一人は仲が良かったと聞かされてはいるものの彼女の中では未だに悪役としてのイメージが強いのだ。涙目にもなるだろう。

「茉莉香!私が分からんのか!」
「ご、ごめんなさいいいい」
「おい!ビビらせてんじゃねえぜ!」
「貴様の大声に驚いておるのだ!」
「お前らどちらにも決まっているだろうが!」

ジョルノ達に囲まれて和やかにしていた分には静観しているつもりだったが、彼らの間に挟まれて泣きそうになっていてはそうもいかない。ディアボロは果敢に飛び込みDIOの腕から茉莉香を奪い取った。

「茉莉香を怖がらせるようなら貴様ら近寄るな!」
「保護者気取りか餌風情が!」
「保護者気取りじゃなくてこいつの保護者は俺だ!」
「おいおいそいつは聞き捨てられねえな」

ディアボロの言葉に引っかかるものがあったのか、承太郎まで突っかかり始める。三つ巴の中いよいよ泣き出しそうな茉莉香を救ったのは扉から入ってきたポルナレフだった。

「おい、茉莉香を知らないか…ってこれは一体どういう状況だ?」

ぽかんとするポルナレフに承太郎が言葉短く説明すると彼らくすりと笑った。

「なんだ、そんな面白いことをしてるなら教えてくれても良かっただろう?」

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