神隠しの少女 | ナノ




神隠しとアレッシーパニック

「おい、本当に大丈夫なんだろうな」
「ふん、気に食わないのなら帰ったらよかろう」
「無駄無駄…人の仕事中に迷惑極まりませんね」
「ならば貴様も仕事とやらに専念してはどうだ?」
「というか俺は今すぐにでも帰りたいのだが…」
「まだ終わってない引き継ぎもあるんですよ?帰れると思ってるんですか?」
「もうどう考えても仕事する雰囲気じゃあないだろう…」
「まあまあ俺は結構見てみたい気もするけどなあー」
「…まあ彼女の身に危険がないのなら俺も気になるな」
「私も」

大きな部屋の中わいわいと大勢の声が聞こえる。その部屋の中心に居る男は冷や汗を流しながら一刻も早く目的の人物が来るのを今か今かと心待ちにしていた――。


「ジョルノ、失礼するよ。…って、え!?なんでDIOと承太郎が!?っていうかアレッシーさんじゃ、」

男…アレッシーは茉莉香の驚きの声に耳を貸さずにとにかく雇い主に頼まれたことを遂行した。しくじればどれだけの罰を与えられるのかと心底怯えながら。彼の影が生き物の様に伸びて茉莉香の影と交わり、見る見るうちに彼女の体は縮んでいった。

「え、ちょっ!アレッシーさんんんん!?」

そこに居る面子からして危害は加えられないだろうと踏んで茉莉香がスタンドを繰り出すことはしなかった。そして退行が止まった時、茉莉香は六歳児程度まで戻っていた。

「…え、あれ…?えーっと…」

ぶつぶつと言いながら辺りを見回す茉莉香の顔に驚きや焦り、不安と言った色が目まぐるしく浮かんでいく。その顔を見て承太郎は不思議に思った。

「…あいつ記憶がないんじゃねえか?」
「なに!?アレッシー貴様!記憶を保ちつつと言っただろう!」
「す、すいませんんんんんん!」

以前エジプトでジョースター一行を縮めた時も緊張感はあったが、今回は本当に命の危機を感じるほどの緊張感が有った。そしてそれは悪い方に作用してしまったらしい。アレッシーは今すぐ直して見せます!と言うことでなんとかその場を凌ごうとした。しかし尚言い募ろうとしたDIOを止めたのは小さくしゃくりあげた茉莉香だった。
それはそうだろうとジョルノは冷静に考える。聞いた話によれば彼女が父であるDIOと出会ったのは八歳ごろ。承太郎もその少し後だと言う。つまり彼女からすれば知らない大人ばかりいる所に急に放り出された様なものだ。とりあえずジョルノは一番年も近く人当たりもいい自分が行くべきだと一歩踏み出すが、茉莉香はそれに怯えた様に一歩引いた。

…これは一体どういうことだろうか。茉莉香は酷く混乱していた。ジョルノが思ったように知らない人間に囲まれているからではない。むしろ知っている――そう、彼女が愛してやまない漫画の登場人物がここに居るからこそ、混乱していた。
自分はサルディーニャ島で祖父母と暮らしていた筈だ。ジョルノ達が居るのに承太郎もDIOも…ディアボロも、居る?一体ここはどういう状況なんだ?お兄ちゃん、お兄ちゃん…。様々な考えが浮かび上がっては消え、最後に残ったのは兄と慕うディアボロの名を冠した青年の姿。そして目の前に居る五部のボス…ディアボロの姿に、心配そうにこちらを見る目に、彼の名残を見つけて、バラバラになっていたピースがハマるような感覚に陥った。
少し開けた視界の隅には冷や汗をかいているアレッシーの姿もある。口々に私の名前を呼んでいるのだから、彼らは私を知っている。つまり私は彼のスタンドによって退行させられたのだろう。そして彼らに険悪な雰囲気はない。なにがどう狂ったか分からないがどうやらボス二人は生き残ったらしい。ここで一番の異分子は私なのだから未来の、いや過去?の私が何かしたのかもしれない。
合っているか間違っているかは分からないが一応の仮説を立てて茉莉香は少し落ち着いた。とはいえ、未だに混乱が消え去った訳ではない。敵意は無いようだが、攻撃されたことには違いないのだろう。焦った茉莉香が取った行動は…とにかく知っている人間の懐に逃げ込むと言うものだった。
しゃがんでこちらを窺うジョルノやミスタを避けて茉莉香はディアボロの元へと走った。だぼだぼな服に足を取られながらも懸命に飛びついた体は記憶と違い厚く大人のものだったが、抱き上げる手つきや自分を呼ぶ声の響きは変わりない。それに安心する反面、これが現実なのだと知って涙が出る。それが大好きだったキャラが生きていることに対する喜びか、これが現実だと突き付けられた恐怖にかは茉莉香には分からなかったが。

「お、にいちゃん…」

震える声で自分を呼ぶマリカをディアボロは優しく抱き上げる。昔していたように優しく背を叩いてやれば、少しだけしゃくりあげる呼吸が収まってきた。

「よしよし…大丈夫だぞマリカ」
「何故そんなカビ頭の所に行くのだ!」

DIOの声にマリカの肩が跳ねる。思わず睨み付ければいつもとは雰囲気が違うのかDIOも一瞬口を噤んだ。

「…とにかく!俺はマリカに今までのことと現状を説明してくる!おい、お前は早く元に戻すか記憶を戻すかしろよ」
「は、はいいい!戻すならすぐ戻せますが!」
「それでは詰まらんだろう!」
「お前…!マリカが泣いてるんだぞ!」

一瞬即発の空気になったところをマリカが服を引いて気を逸らしてきた。小さくいいから話を聞かせて、と呟くマリカの頭を撫でて、もう一度DIO達を睨み付けディアボロは部屋を出た。

ディアボロの膝の上で今までの話を聞く。…随分と波乱万丈な人生を送ってきたんだなあ私。とりあえず身に危険はないと分かった茉莉香は持ち前の順応力で彼の話を受け入れた。とはいえ実感は全く伴っていないのでただおとぎ話を聞いていただけの様な気もするが。

「どうする?このまま戻るまでここに居てもいいんだぞ?」
「うーん…でもそれだとあの人に迷惑が、かかっちゃうんだよね?」
「…そんなことは気にしなくてもいいぞ」
「ううん…とりあえずもう一回だけ戻ってみるよ」

茉莉香はディアボロを見上げてにこりと微笑んで見せた。ディアボロはそれに小さくため息を吐くと抱き上げようとして…。

「…ああ、服が要るな…といってもお前のスタンドがないとなるとどう調達したものか」
「スタンド…」

話にも出ていたが私はスタンド使いになっていたらしい。驚き桃の木山椒の木…若い子ってこれ通じるのか?自分の思考に突っ込みつつ適当に茉莉香が力んでみるもののスタンドは出てこない。

「…無理そう」
「…仕方ない。とりあえずお前の服の中で一番小さいシャツでも羽織って…いや…」

ディアボロは徐にシーツを破くと棚から取り出した裁縫道具で手早く縫っていく。大分雑だが茉莉香の背丈に合わせて縫われたそれに肩ひもも付けて被らせればそれらしい格好になった。

「下着のサイズも合わないしいつ落ちるとも分からんからな…」

確かに彼の言うとおりシャツの下に履いている下着は随分と緩い。よくもまあ先程走った時に落ちなかったものだと茉莉香の額に汗が流れた。

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