神隠しの少女 | ナノ






皆が店主と話している間に私は少し離れ、店内を見回し首を捻る。
あれー…?店主のいかつい顔といい、側に見える丘といいここが彼…ダニエルさんが賭けを仕掛けてくる筈の店に違いない。しかし彼の姿は影も形もなかった。
…まあ私が居る以上皆が賭けに乗ることはないだろうし、それ以外に闘う手段のないダニエルさんが姿を現さないのは不思議ではないか。原作とは違うが…むしろここまでほぼ大きな違い無く道程を歩んでこれたことが奇跡と言える。どこかで違いが生じる可能性は充分にあった訳で。
ダニエルさんに会えないのは残念だが仕方ない。元々彼に勝っても館の場所は分からずに居たわけだし。死人や怪我人(犬)を出さずに館を発見するにはホルホースさんを生け捕るのが正解かなあ。
それにしてもわざわざ館を変えていたとは…。昨晩こっそり館の側まで行ってみたら影も形も無くてびっくりしたわ!しかも親切心で承太郎たちに教えたら勝手な行動をしてって凄い叱られたし。無駄足踏まずにさっさと館探しに出れたのは私のお蔭なんだぞ…。
場所が分からないなら私のスタンドで…という彼らを深夜までかけて説得したせいで今まで以上に眠気が酷い。いきなりDIOの部屋に行ったりしたらヴァニラとペットショップっていう武闘派がそのまんまだからね…なんなら個人的にはヴァニラのスタンドの方がDIOなんかよりよっぽどチートだと思うよ…。
睡眠不足が重なっているせいかどうにも怒りっぽくなっているのだろうか。昨夜の事を思い出して妙にイライラしてしまう。視線を向けると承太郎たちは歩き回った疲れもあるのかカウンターでアイスティーを一気飲みしていた。店主に確認して周りの客にも聞くとなればもう少し時間がかかるだろう。彼らには申し訳ないが少し座って休ませてもらおう。
日陰になっている端の方の席に目をつけ、席に着いた。…あ、ここ承太郎たちから死角になっちゃうなあ。少し角度を変えれば直ぐに見えるが余計な心配をかけるのもなんだ。もう一度腰を浮かそうとした時、背後から手が伸びてきた。布で口を塞がれ、スタンドを出そうとして…一気に意識が朦朧としていく。前にもこんなことがあった、なんて思っている内に何も分からなくなってしまった。



「…ん、ん」

ぼんやりと意識が浮上していく。重たい体を起こして数度頭を振った。人の気配を感じて目をやると小さな影がビクついた。目を凝らすと…。

「…ボインゴ?」
「あ、あ…」
「…なんで君がここに?…あれ?」

私は一体どこに居て、何をしてるんだ?意識を失う前私はどうしていたんだっけ…?
霞が掛かったように思考が纏まらない。慌てふためくボインゴの気配を感じながら頭を抱えていると扉の開く音がした。

「お、起きたか」
「ホルホースさん…?お久しぶり、です?」
「…ああ」
「ボインゴもそういえば久しぶりだね、この間はごめんね」
「う、うん…」

汗をかきつつ頷くボインゴをぼんやりと眺めて。…謝らなきゃと思って謝ったたけどこの間ってなんだっけ。えっと…そうだ、ボインゴとオインゴを漬物石で止めを刺して…。随分と前の様な気がするなあ…。いや、違う。気がするんじゃなくて、あの後私はマライアさんとアレッシーさんと会って…。

「…く、薬がきき、効きすぎたんじゃ」
「くっそ…だからそういうのは苦手だって言ったのにダニエルの野郎…」

そうだ、ダニエルさんが居る筈の店に彼が居なくて、少し座って承太郎たちを待とうと思って…薬を嗅がされたんだ。

「おい、茉莉香、…!」

ホルホースさんが息を飲む。そりゃあそうだろう今目の前に居た人間が自分の真後ろに立っているのだから。もしかしたらDIOとの一件を思い出しているのかもしれない。そんなことを思いながら首に指を回す。

「一体これはどういうことですか?…承太郎たちは?ダニエルさんの指示なんですか?」

私の正面に位置するボインゴがぶるぶると震えながら泣きそうな顔をしているのが目に入る。しかし今彼を気遣う余裕はなかった。

「早く答えてくださいよ」
「…だ、ダニエルに頼まれてお前を連れて来たんだ」
「何のために」
「お前が攫われて、こっちの手の中にあるとなりゃあいつらは俺らの言うことを聞くしかねえ…DIOの所に連れてきゃ賞金が手に入る。だろ?」
「へえ…幾らか分け前でも貰うんですか」
「あ、ああ…あいつにゃ賭けでの負け分もあったし…」
「…随分とはした金の為に命を捨てるんですねえあなた」

指の下でホルホースさんの喉が上下する。抑えきれない震えが指先に伝わってきた。

「…首から下とお別れする準備は出来ましたか?」
「茉莉香!」

いつの間にか移動してきていたボインゴが私の服を引く。ぶるぶると震え蒼白になりながらも私を見上げる彼に少しばかり頭の熱が下がった。ホルホースさんから手を離すと椅子から転がり落ちる。それを見下ろしてからボインゴの頭に手を乗せた。


「…あ、ああ、あれ?」
「ボインゴ!」

驚いたようなオインゴがベッドから体を起こし顔を顰める。どうやら彼はまだ動けるほどには回復していないらしい。

「ボインゴ」
「は、は、はひっ!」
「…今回は見逃してあげるよ。でも次は無い。いいね」

ぶんぶんと何度も頷いたボインゴがオインゴの胸に飛び込む。それを抱きとめたオインゴと目が合った。

「…君達が兄弟でよかったね」

そうじゃなかったら、きっと私はその子も許しはしなかっただろう。

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