神隠しの少女 | ナノ






食事が終わって腹が膨れると眠気が襲ってくる。どうやら体の機能は完全に幼児と同じようだ。花京院とポルナレフも小さく舟をこいでいる。

「子供たちはおねむの様じゃなあ」
「朝から振り回しちゃったし寝かせてあげないとねえ」

元凶の二人は和やかな笑みを浮かべながら頷き合う。振り回している自覚があるならさっさと終わらせてほしい。
ベッドに転がされた花京院とポルナレフは直ぐに眠りに入ったらしい。しかし俺はどうも眠いのに寝付けない。

「ジョースターさん。お遊びもいいですがこれからどうするか考えないと」
「うむ。仕方ないのう。ここで話すと子供たちが起きてしまうし…茉莉香、三人を頼むぞ」
「はーい」

二人を見送った茉莉香が部屋に戻ってくる。花京院とポルナレフの頬を一撫でしてから俺の方を向いた。

「承太郎は寝ないの?」
「…うるせえ」
「もう、まだ怒ってるの?」

小さな子供にするように抱き上げて背中をリズミカルに叩いてくる。その感覚に少し瞼が重くなった。

「かわいいなあ」
「うる、せえ」
「あーあ、小さかった承太郎と暮らしてみたかったなあ。私弟って欲しかったんだよねえ」
「俺がちいせえ時は、お前はもっと小さいだろ」
「ああ、それもそうだねえ」

俺を抱いたまま茉莉香は空いていたベッドに横たわる。俺の頭を腕に乗せると柔らかく抱きしめた。

「あったかい…子供体温だね」
「おかげさまでな」

一度欠伸をした茉莉香が眠そうにしながら頭を撫でてくる。いつも撫でる側でこうして撫でられるのは落ち着かない。けれど眠気も相まって心地よく感じてしまうのはこの体のせいだ。

「もしおじいちゃん達じゃなくて、初めから空条家に引き取られたらこんな可愛い姿見れたのかー」
「…そんときゃもう少しでけえだろ」
「んー…引き取られたのが三歳くらいだったから…承太郎は九歳か。ランドセル背負った承太郎可愛かったよねえ」
「知らねえだろ」
「ジョセフおじいちゃんから写真見せて貰ったもーん。…でも本当、その頃から引き取られたらどうなってたかなあ」

しみじみとそう言う茉莉香に眉が寄る。茉莉香は何とも言えない表情をしていた。

「…初めからうちに来たかったか?」
「…うーん」

俺の質問に茉莉香は小さく首を傾げた。俺を更に抱き寄せて頬ずりをする。くっつく体を押し返すがびくともしない。

「ほっぺすべすべだねえ」
「うざってえ止めろ」
「つれないなあ」

質問に答えずに茉莉香は俺の背を叩いて眠りに誘う。そうしている当の本人も睡魔に勝つ気もないのかもう目を瞑っていた。手の動きが緩慢になり、俺の瞼もいよいよ重くなってきた。

「後悔は、してないよ。おじいちゃんたちもお兄ちゃんも居たし」

聞き覚えのない存在に目を開けるが茉莉香はもう半分以上夢の中に居るようだった。目を閉じながらだらしなく笑っている。なにか楽しかったことでも思い出しているのか。

「ああ、でもやっぱり可愛かった頃の、承太郎も、見たかったなあ」

途切れ途切れにそう言うと茉莉香はついに意識を手放したようだった。色々と聞き出したいことは有ったが、俺も限界だった。背に回る温かな体温と規則正しい寝息に意識が混濁し、途切れた。

「かわいいのー」
「起きたら怒られますよ」
「大丈夫大丈夫」

話し声に目を醒ますとカメラを構えるじじいと額を押さえるアヴドゥルの姿が有った。躊躇いなくスタープラチナでカメラを叩き落とすと悲鳴が上がる。その声に他の三人も目を醒ましたようだった。

「Oh No!!!承太郎!すこーし酷過ぎやせんか!?」
「てめえを殴らないだけ優しくしたつもりだぜ」
「フィルムが無事ならイケる!イケる!」
「お前もなに寝起きで騒いでんだ」

ごちりと頭を殴れば茉莉香が口を尖らせた。先程の「おにいちゃん」とやらの話を聞き出したいが、今は無理だろう。…自分の事は承太郎と呼ぶのに、お兄ちゃんと呼ぶ存在がいると言うのはなんとなく気分が悪い。

「そろそろ財団の人間も来るし終わりかのう」
「そうだね、アレッシーさんたち呼んでくるよ」
「…茉莉香」
「ん?どうしたの承太郎?」

振り向いた茉莉香を手招きする。近づいた茉莉香の耳に唇を近づけて。

「お姉ちゃん」

息を飲んで体を離した茉莉香ににやりと笑ってやる。

「この貸しは忘れんなよ?ちゃんと返して貰うぜ?」
「くそう!可愛いのにカッコイイ!卑怯だぜ承太郎!!!」

キャー!なんて悲鳴を開けて部屋を飛び出す茉莉香に学帽を押さえようとして被っていないことを思い出す。

「やれやれだぜ」




子供化パニック
まあ今度小さくなるのはてめえの方だぜ

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