神隠しの少女 | ナノ






自分の腹が情けない音を立てる。思わず動きを止めれば茉莉香が満面の笑みでしゃがみこんだ。

「お腹すいたよねー何か食べようか?」

小さな子供にするように頭を撫でてこようとする茉莉香から逃げようとするが、この体では一歩引いても意味がない。至極楽しそうに頭を撫でられて怒りか照れか自分でもわからないが顔に熱がこもるのが分かった。

「よいしょ」

そうこうしている間に茉莉香は俺を軽々と抱き上げる。いつもよりも近い距離、初めて下から見る茉莉香の顔に思わず体が固まった。それに気付いたのか茉莉香がヘラりと笑う。

「大丈夫、落としたりしないよ」

優しい手つきで頬を摘ままれて文句を言おうとした口を閉じる。

「ふーむ、確かにいい時間じゃしな。何か買ってくるとするか」
「あ、じゃあボクも」
「花京院たちはここにいなさい。あ、子供服もいるかのう!?」
「可愛いの!可愛いのでお願いします!」
「無駄遣いするんじゃねえ!」

ヒートアップする二人に怒鳴りつければ揃えて口を尖らせる。

「折角なのにー」
「そうそう、そのままじゃ動きづらいじゃろー?」
「いいからさっさと飯買ってこい!」
「もー。小さくなっても怒り方は変わらないんじゃからー」

妙なしなを作るジジイを睨み付けるが、それも気に入ったのかぐしゃぐしゃと髪を掻き乱してから出て行った。

「でも本当そのままじゃ皆動きづらいよねー」

うーん、と唸った茉莉香が俺をベッドに下ろして考え込む。

「なにかいい物…あ」

何か思いついたのか手を打った茉莉香はスタンドから何か箱を取り出す。

「なんだいそれ?」
「私が昔着てた服。大概は教会とかに寄付したんだけどお気に入りの服はなんかもったいなくて持ってきてたんだよねー。多分シャツとか…ワンピースは流石に駄目だな、うん」

箱から幾つかの服を取り出すが、どう考えても俺達には大きい。小学生程度まで縮んだアヴドゥルでぎりぎりだろうか。

「とりあえずアヴドゥルさんはこれで」

差し出された服を体に合わせてサイズを確かめたアヴドゥルがトイレに向かう。その間も茉莉香は箱を漁っていた。

「やっぱここまで小さいのはないかー。まあとりあえずシャツだけでもいいかね」

何枚かのシャツを持った茉莉香がこちらを向く。

「ほら、着ようねー」
「って、なにやってんだ!」
「お着替え?」
「自分でやる!」
「えー…上手くできなくて転んだりしたら大変じゃん。ほら、ばんざーい」
「やるか!」

抗議する間も茉莉香は俺を膝に乗せてだぼだぼになっていたシャツのボタンを外して脱がせに掛かる。ちなみにズボンと学ランは縮んだ時にそのまま脱げた。

「っ!待て!アヴドゥルにやらせる!」

冷静になってすうすうする股間に気付く。そう、体のサイズに見合っていなかった下着もズボンと一緒に脱げ落ちていたのだ。異常事態とはいえ今まで気付かなかった自分もどうかと思う。俺の行動に残りの二人も気付いたのか慌てて服の裾を抑えた。

「えー…分かったよー…」

必死の抵抗が効いたのか渋々茉莉香が手を離す。丁度トイレから出てきたアヴドゥルの元に三人して駆けこんだ。
結局大きめのシャツをワンピースの様に着るしかなかった俺達は顔を見合わせて引き攣った笑みを浮かべる。

「…あの二人ほんと何考えてんだ…」
「楽しいことだけじゃないか?自分たちの」
「元に戻ったらこの代償はしっかり払ってもらわねーとな」
「まあまあ。そろそろジョースターさんも戻ってくるだろうし行くぞ」

一人まともな服装だからか比較的怒りの薄いアヴドゥルが俺達を促す。トイレから出ると茉莉香が嬉しそうな顔をした。

「かっわいい!シャツがだぼだぼで小さい子って感じだねえ!」
「茉莉香…流石に怒るよ?」
「そんな顔も可愛いよ典明君!」

花京院を抱き上げた茉莉香がくるくると回っていると、じじいが帰って来た。その腕には食事にしては大過ぎる量の袋が抱えられていた。

「お!可愛いの!でもなあ…もっと可愛いの買ってきちゃったよーん!」
「無駄使いするんじゃねえって言っただろうが!」

ごそごそと袋の中から子供服を取り出したじじいに勢いよくスタープラチナを繰り出した。

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