神隠しの少女 | ナノ






茉莉香とジョースターさんの部屋に行ったら、幼児まで退行させられた。何を言っているか分からないと思うがボクも何をされたか分からない。…何だかこの言い回しは近々被りそうな予感がする。

「典明君可愛いねえ」

膝の上に向かい合うように僕を乗せた茉莉香がにこにこと笑いながら頭を撫でてくる。髪を梳いたかと思えば、頬を摘まんでくる自由な指先がくすぐったくて仕方ない。それから逃れるように顔を振れば、また可愛い!と笑いながら抱きしめられる。いつもならボクの腕の中にすっぽりと入ってしまう茉莉香が逆にボクを包み込むように抱きしめているというのはなんだか違和感だ。というか恥ずかしくて仕方ない。
助けを求めようにも、同じように小さくされてしまった承太郎はジョースターさんに抱き上げられているし、ポルナレフは元凶らしい男に元気よく殴り掛かっている。アヴドゥルさんはそんなポルナレフを止めるのに必死でボクの視線なんか気づかない。

「茉莉香、離してくれ」
「えー…」
「何を渋ってるんだ!大体君もジョースターさんもどうかしてるぞ!わざわざ嘘までついて!」

君が切羽詰まった声で急いで部屋に来いって言うから承太郎と慌てて来たのに!待ち受けていたのは満面の笑みの茉莉香と見知らぬ青年――若返ったジョースターさんだった。呆気にとられている内に陰に隠れていた男に子供にされて、このざまだ。全く同じ罠にハマったアヴドゥルさんとポルナレフも続けざまに小さくされてどうしようも出来やしない。

「大体今攻撃されたらどうするんだ!もし逃げられたら!」
「大丈夫大丈夫。何か不穏なことしたら容赦しないって言ってあるし。ねえ?」

茉莉香に声をかけられた男がぎこちない動きでこちらを向く。その顔色は真っ青だ。ついでに一緒に振り返ったポルナレフとアヴドゥルさんの顔も少し引き攣っていて、一体茉莉香がどんな顔をしているのか気になったけれど、抱きしめられていて上手く上を向けなかった。

「お、俺とマライアは飯でも食ってくるぜ!」
「スタンドの効力範囲内ならお好きにどうぞ」
「お、おう…。限界になったら戻ってくるからな」
「えー、私も行くわけ?」
「いいからさっさと行こうぜ…!」

不満げなマライアを連れて男は足早に部屋を出た。逃げる可能性が頭を過ったが、それも先程の怯え方を思い出して消え去った。つまり、彼が逃げることもなければ限界までスタンドを解除することもない。暫くはこのままだということだ。誰が言い出すでもなく皆気付いたらしく、茉莉香とジョースターさんを覗く四人で深々とため息を吐いた。

「ポルナレフって小さい頃そばかすあったんだねー」

ボクを下ろした茉莉香が今度はポルナレフを抱き上げる。ポルナレフは抗議するようにバタバタと暴れた。

「何すんだよ降ろせ!」
「わっ、とっと…危ないよー」

落としかけた茉莉香が慌てて抱きしめればポルナレフも諦めたのか体の力を抜く。

「いいこいいこ」
「やめろ!幾つだと思ってんだ!」
「外見的には幼稚園児くらいだよね!」

うりゃうりゃーとポルナレフの頭を掻き乱す茉莉香にポルナレフがまた声を荒げる。

「っていうかほら!承太郎!承太郎も小さくなってんぞ!」

逃げれないと分かって標的を変えることにしたポルナレフが小さな手でジョースターさんに抱かれる承太郎を指差した。すると茉莉香の動きがピタリと止まる。

「…いや、見たのは山々なんだけどね?天使の様に愛らしいのは写真で確認済みですしね?でも…怖くて直視できない…!」

茉莉香の言葉にポルナレフとアヴドゥルさん三人揃って承太郎に顔を向ける。ジョースターさんの腕の中俯いていた承太郎がゆるりと顔を上げる。その顔立ちは確かに茉莉香がいうようにとても可愛らしいものだった。しかし、その顔にはなんの表情も浮かんでいない。後ろに般若が見えて新しいスタンドに目覚めたのかな、なんてボクまで現実逃避したくなるような静かな怒りに満ち満ちている。

「…茉莉香」

承太郎に呼ばれて茉莉香の肩がピクリと揺れる。それでも顔を向けない茉莉香に承太郎は舌打ちしてもう一度茉莉香を呼んだ。ポルナレフを下ろして恐る恐る承太郎に顔を向けた茉莉香に、承太郎が何か言おうとした瞬間。

「ああくっそ、やっぱかわいい!!!!」

承太郎に、正しく言えば承太郎を抱いたジョースターさんに茉莉香が飛びつく。声を荒げる以前に二人の間に潰された承太郎の口から苦悶の声が零れた。しかしテンションの上がった二人はとんと気づいていないらしい。

「ジョセフおじいちゃん!なんですかねこの可愛らしい生き物は!」
「わしの!自慢の!孫です!」
「ですよねー!」

20代前半くらいまで若返ったジョースターさんが胸を張る。きゃいきゃいと飛び跳ねながら拍手をする茉莉香。その間に挟まれた承太郎の目がギラリと光る。

「スタープラチナ!」
「「え」」

承太郎の後ろに浮かんだスタープラチナは本体と同じく小さくなっていたが平時と変わらぬスピードで茉莉香とジョースターさんの頭に拳骨を振り下ろす。ジョースターさんも思わず承太郎を落とすが彼は華麗に着地を決めた。頭頂部を抑えてしゃがみこむ二人の前に仁王立ちする承太郎は小さいのに普段と同じかそれ以上の威圧感を放っていた。

「…さてテメーら何か言い残すことは有るか?」
「承太郎マジ天使!」
「小さくなってもスタンドを使いこなすとは流石わしの孫じゃ!」
「…オラオラオラオラオラ!」

スタープラチナがラッシュを繰り出すが、二人はひらりと身を躱す。小さい分射程距離が短いのか一歩下がって満面の笑みを浮かべていた。それに腹を立てたのか、更に追撃をしようとした承太郎のお腹から気の抜ける様な音がした。

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