神隠しの少女 | ナノ






人の言い争う声が聞こえる。閉じていた瞼を開くと、照りつける太陽と青空、そして典明君の顔が見えた。

「ああ、起きた?」
「…うん」

枕役になっていてくれたらしい典明君の膝の上から体を起こす。未だにぼんやりとする頭を何度か振った。

「良く寝てたね」
「そう、だね。何か寝言とか言ってなかった?」
「いいや?気持ちよさそうに寝てただけだよ」
「なんだかそれも恥ずかしいなあ」

額に手を当ててもう一度頭を揺らす。…また彼の夢を見た。エジプトに入ってから夜の眠りが浅くなり、代わりに昼間耐えきれないほどの眠気に襲われる。その度いつもDIOが夢に出てくるのだ。初めは声だけだったのが、コム・オンボの辺りから触れる手の感触が、鼻を擽る彼の香りが、どんどんと鮮明になっていく。そしていつもDIOの姿を見ようと目を開けるところで夢から覚めた。無意識のうちに彼の所に行ってしまっているのかとも考えたが直ぐに否定する。そんなことが有ればすぐ承太郎たちに何をしていたか迫られるに決まっていた。何せ彼らのど真ん中で昼寝をしているのだから。

「離せって言ってんだろうがこのビチグソ共があ!」

聞き覚えのある綺麗な声が、それと反する下品な言葉を叫ぶ。それに漸く顔を上げるとマライアさんが承太郎たちに捕えられていた。

「さっき捕まえたんだ。あの岩の所に茉莉香が言っていた通りコンセントに擬態してスタンドを潜ませていた」
「ああ、そうなんだ」
「茉莉香!ちょっとこいつらなんとかしなさいよ!」

起きた私に気付いたらしくマライアさんが凄まじい形相でこちらを向く。元が美人さんなだけあってその迫力に頬が引き攣った。全力で聞こえなかったふりをしたいところだが、そうもいかない。車を降りて、彼らの所へと向かった。

「マライアさんマライアさん、ちょっと落ち着きましょう。ね?」
「落ち着けるわけないでしょ!?ちょっと、汚い手で触んなって言ってんでしょ!」

手首を掴む承太郎の手を振り払おうとマライアさんが一生懸命腕を振る。もちろんそんなことで承太郎が振り払われるはずもない。ただ、今現在脅威ではない女性に対して皆どうしたらいいか分からないのだろう。スピードワゴン的に言うと甘ちゃんの集団と言う奴だ。でもまあそこがいい所だよなあ、なんて呑気に考えつつ宥めるように手を動かす。

「マライアさん落ち着いてください。スタンドの仕掛けは見破られてますし、無理に仕掛けようにもスタープラチナのスピードには敵いませんよ。それに万一スタンドを使えてもこんな所じゃ私たち全員にダメージを与えられるようなものも無いでしょう」
「それは…!」

言葉に詰まったマライアさんが唇を噛んで俯く。少し間をおいてキッとこちらを睨む目に薄く涙が光った。

「あんたどっちの味方なのよ!DIO様に何かあってもいいわけ!?」

ポロリと零れた涙が太陽を反射してキラキラと光る。美人さんは泣いても美人なんだなあと感心する一方、泣かせてしまったことの罪悪感に胸が軋んだ。これだから美人の涙は厄介なのだ。実際女に弱いポルナレフはものの見事に動揺している。

「私はDIOの味方ですよ」
「茉莉香!?」
「ポルナレフ煩い。私はDIOの味方で、そして承太郎たちの味方です」
「何よそれ!訳わかんない!」
「私にとってDIOも承太郎たちもどっちも選べない位大切なんです。だからどちらも失わない…失わせません」

マライアさんの動きが止まる。承太郎の学ランを引っ張れば、少し考えてから承太郎は手を離した。力無く垂れさげられたマライアさんの手を取る。冷たくなった指先を暖めるようにギュッと握る。

「大丈夫。もし承太郎たちがDIOを殺しそうになったら殴ってでも止めますから。まあ逆でも同じですけど」
「そんなこと出来るの」
「出来ますよ。…何が有ったって、やり遂げて見せますから」

少し温まった彼女の指が私の手を握る。

「信じて、いいんでしょうね」
「もちろん。私が嘘ついたことありましたか?」
「くっだらない冗談ならラバーソールの馬鹿とよくついてたじゃない」
「…そ、それはそうですが」
「…いいわ、信じて上げる。でも、もしDIO様になんかあったら一発殴るくらいじゃ済まさないから」

マライアさんがにこっと笑う。後光が差しそうなくらい綺麗に。

「マライアさんって本当美人ですよねえ。結婚しましょう」
「何言ってんの馬鹿。…あんたもちゃんと無事に顔見せなさいよね」
「はい。約束しますよ、DIOと一緒に迎えに行きますから」
「あ、そこはDIO様だけでいいわ」
「酷い!」
「ふん。…承太郎」
「…なんだ」

マライアさんはキッと承太郎を睨み付けて指差す。

「この子無茶ばっかりするんだからあんたちゃんと面倒みなさいよ!あとDIO様に何かあったら殺すから!」
「…後者の事は知ったこっちゃねえが、茉莉香のことは言われるまでもねえよ」
「承太郎…!」

久々のデレに私きゅんと来ちゃったぜ!!!

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