神隠しの少女 | ナノ
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「…アヴドゥルさんって髪下ろすとイメージ変わりますね」
「そうか?」
「ええ。セットも大変じゃあありませんか?」
「もう慣れてしまったからな。そうでもないぞ」
「はー…そんなものですか」

濡れた髪をひとくくりにしたアヴドゥルさんの印象は普段と随分違う。承太郎は失礼にもブ男なんて言ったことがあるが、決してそうではないと知った。

「それで、話したいこととは?」
「え、ああ…皆から離れてる時どうしてたのかな、とか。あと潜水艦の話とか寝物語にして貰えたらなあと」
「それは構わないが…本当にそれだけか?」

真っ直ぐにこちらを見てくるアヴドゥルさんに居心地が悪くなって身動ぎする。もう既にうとうとしているイギーの背を撫でながら、大きく息を吐いた。

「…占い師って読心術もできるんですか?」
「そんなことは出来ないが悩みや迷いを持っている人間くらいは見分けられるつもりだ」
「それ充分読心術だと思いますけど」

一度深呼吸をして目を合わせる。

「私は、やり遂げられますか?」

何を、とも言わずに端的にそう尋ねる。一つ瞬きをしたアヴドゥルさんが笑った。

「随分と直球だな」
「隠し事をしても意味がなさそうですから」
「そうだな、占ってやりたいところだが…君と私との間には今は深い縁が出来ている。占い師と言っても万能ではない。客観性があってこそ正しいものが見える。しかし今共にしているこの旅では私と君の行く末は絡み合っていて…見通すことは出来ないな」
「そうですか」

彼の答に緊張の糸が切れた様に肩の力が抜ける。…私はどう言って欲しかったのだろう。この旅の結末は決まっていると、こうだと教えてほしかったのか。既に幾つも知って変えてきているのに。

「だが…君と初めて話した時に感じたことなら教えよう」

ピクリと肩が揺れたのが分かる。もう一度顔を上げて視線がかち合った。

「随分と複雑なものを抱えていると感じた。その時は君の過去やDIOとの関係は知らなかったが…ジョースター家の因縁も数奇だが君はそれ以上に色々なものに絡め取られていたようだ」
「確かに今雁字搦めにされてる気分です」
「だろうな。…しかし、強い運気も感じた。それは多分君が困難に立ち向かうと決めているからこそ持ち得たものだろう」

強い運気…自分の手を見つめてみる。どちらかといえばついていない様な気もするが、なんだかんだ今のところ誰も失っていない以上そうとも言えるのかもしれない。

「ただ、それは君自身に作用するよりも他者に向かうものが大きい。今までにも何人か同じような人を見てきたが…大半が自分自身ではなく他人を救う役目を持っていたよ」
「…それは嬉しい知らせですね。今もその運気とやらが私にあるならこれからもどうにかなるかもしれない」
「ああ。だが…そうした人の多くは自分の事を蔑ろにしすぎる傾向がある。自分を大切にしなさい、それが更なる運気を呼び込む秘訣だ」
「自分を大切に…」

それは自分でも感じている大きな課題の一つだ。チラリとアヴドゥルさんを見ると真剣な顔をしている。

「ポルナレフとも随分仲良くなったようだな」
「あ、はい」
「君は人にも動物にも好かれる子だ。それは優しい証拠だ…その優しさを自分にももう少し向けて上げなさい」
「…はい、努力します」

立ち上がったアヴドゥルさんがポン、と大きな手を乗せる。

「占い師として無責任に未来を語るのはどうかと思うが…大丈夫、君には承太郎もジョースターさんも皆が付いている。皆君を悲しませるようなことはしたくないと思っているさ。だからきっと上手くいく」
「はい。…アヴドゥルさんも思っていてくれてるんですか?」
「もちろん。子供に悲しい顔をして欲しいと思う大人は居ないさ。さあ、明日も早い…寝物語をしてあげるからもう寝なさい」

電気を消して暗闇の中ベッドに潜り込む。潜水艦の話や、アヴドゥルさんが幼い頃聞いたお話。それに耳を傾けていると、自然と瞼が重たくなってきた。

「アヴドゥルさん…」
「なんだ?」
「ありがとう、ございます…わたし、がんばり、ますから」
「ああ」
「だから…みんなで、たびを…おえましょうね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ…なさい」

寄せては返す波の様に、眠れたかと思えば意識を取り戻す。うつらうつらと半分だけ意識が覚醒したような状態で、少し離れた所から聞こえる寝息に耳を澄ませた。寝る前に聞いた話を頭の中で何度も繰り返し、大丈夫だと言い聞かせる。空が白くなってきた頃、私は漸く意識を手放した。
短い眠りの合間に暗闇の中ぽつんと灯る炎の夢を見た。炎の周り以外は真っ暗だったけれど、その側は暖かくて不安にはならなかった。ふよふよと浮かぶ炎の後をついていくと、その先には――。



夢物語
切望する、元気な愛しい人たちの姿

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