神隠しの少女 | ナノ






やわやわと頬を撫でられる。それがくすぐったくて、逃げるように身をよじった。それでも尚伸ばされた手が頬や喉を擽る。少し冷たいその手の感触に、胸の中で穏やかな温かさが灯った。茉莉香、と聞き慣れた低い声が私を呼ぶ。前髪を梳く様にして頭を撫でられて、観念して彼の名を呼びながら、目を開ければ見慣れた赤い目が…。

「うえ!?」
「…なんだ急に変な声出して」

私を覗き込んでいたのは、彼…DIOではなく、承太郎だった。思っていたのと違う緑の目に思わず体が跳ねて、膝の上で寝ていたイギーが文句を言うように唸る。それを宥めるように背を撫でながら周りを見渡すと、もうコム・オンボに着いたようで賑やかな人の声が聞こえた。

「承太郎、私に触った?」
「何言ってんだ?着いたのに起きねえから今起こしに来たんだろうが」

ほれ、と指差された方を見るとジョセフおじいちゃん達が待っているのが見えた。慌ててイギーを下ろして岸に上がろうとすると、承太郎が手を差し出してくれる。掴んだその手は、夢とは違い温かかった。

「…私、ずっとここに居たよね?」
「…寝ぼけてんのか?」

馬鹿なこと言ってねえで行くぞ、と歩き出した承太郎に続けて一歩踏み出し…後ろを振り返る。私は確かに船の上に居た。でも…自分の頬に触れれば、まだ感触が残っている。あの手、声、嗅ぎ慣れたDIOの香水の匂い。どれをとっても夢とは思えないほど鮮明で。

「…会わな過ぎて禁断症状でも出たか?」

自分で言ってて洒落にならないと思うが…とりあえずここ最近では珍しい程深く眠れたのか疲れが取れている。考えてもやっぱり分からず首を傾げながら私を呼ぶ承太郎の方へ駆けて行った。

「遅いぞ」
「ごめんなさーい」
「これからエドフに向かう。チケットを買いに行くぞ」
「はーい」

元気良く返事をして、ポルナレフが居ないことに気付く。…あれ、そういえばアヌビス神と戦う時なんでポルナレフは一人っきりだったんだっけ?良く考えればこの状況で一人っきりになる状況なんてそうないだろう。はぐれたりしない限り…と思ったところで冷や汗が滲む。慌てて周りを見渡せば、少し離れた所にポルナレフの姿が見えた。彼がいないことに気付かず進む一行と、ポルナレフを見て急いで彼に近づく。

「ポルナレフ!」
「おお、どうした!」
「どうしたじゃないよ!皆もうチケット買いに…」

承太郎たちのいた方を指差すが、その姿はもう他の人に紛れてしまっていた。

「あっちゃーはぐれちまったな」
「あっちゃーじゃないって…」

額を押さえる私に対して気楽そうなポルナレフにパピルス売りが近づいてくる。偽物のパピルスを破ったポルナレフがこちらを振り向いた。

「で、どうする?」
「どうするって…とりあえず承太郎たちと合流しようよ」
「んじゃチケット売ってるところに行くか」
「…場所知ってるの?」
「適当に行きゃ着くだろ」

ポルナレフの言葉に思わずため息が出る。多分もう近くにアヌビス神を持ったチャカが居るのだ。安全を期すにはさっさと合流した方がいいのは明白である。だが…ここでチャカを倒さないとどこで襲ってくるか分からないのも事実。船の中で襲われでもしたら要らぬ犠牲が出るかもしれないし…。
考え込んでる私を尻目に歩き出したポルナレフが私を呼ぶ。もう一度ため息をついてとにかく彼を追った。

遺跡の様な所に向かって歩くと、後ろからついてくる気配を感じる。ポルナレフも気付いているらしく、お互いそっと目を合わせると遺跡の中へ入った。
静まり返った遺跡に入ると、刀を持った青年…チャカが隣に並ぶ。

「おい、随分肝っ玉がでかいじゃあねーか……こんな人の多い所で攻撃を仕掛けようなんてよ」

何も答えないチャカを見ながら、アヌビス神を奪おうとスタンドをこっそり発動させるが、何の反応もない。やはりスタンド自身であるアヌビス神は触れなくてはダメなようだ。だが、剣の達人とかしたチャカの一刀を躱せるほどのスピードは生憎持ち合わせていない。

「しかもめずらしいぜ。おめーのように本体を見せてストレートに戦いをいどんでくる敵はよ、男らしいぜ。いねーと思ってたぜ。名のりな」
「名はチャカ……「冥界の神アヌビス」のカードを暗示とするスタンド使い。J・P・ポルナレフお前の身柄拘束させていただく」
「…茉莉香、お前どっか行ってろ。…かかってきな、そのアヌビス神とやらのスタンドでな」

ポルナレフに言われた通りに距離を取る。スタンドの攻撃範囲ギリギリだが…物質を透過しながらポルナレフに切りかかるチャカと、それを躱しながら剣を交わらせ二人の間に入り込める雰囲気ではない。ポルナレフの奥の手もあるし静観していた方が邪魔にならないだろう。
チャカが柱を切り倒して砂と埃が舞う。それに咳き込んでいる内に決着がついたらしい。
倒れ伏したチャカの側に転がったアヌビス神を拾おうとしたポルナレフを慌てて止める。

「触っちゃダメだって!それが本体なんだから!」
「お、おお!そうだったな!にしてもこの剣見事な作りだよなあ」
「…もう洗脳されてるの?一発殴っとこうか?」
「されてねえよ!過激だなお前!…にしてもどうすんだ?このままって訳にもいかねえだろ。どう見ても凶器だし、なによりスタンドだしな」
「抜かなきゃいいわけだよね?抜かなきゃ…」

エドフでチャリオッツが二刀流になった時も洗脳は解けなかった。スタンドが持っても作用すると考えるか、それとも本体が憑りつかれていなければいいのか…未知数だが、ポルナレフの言うとおり放置するわけにもいかない。

「…もし、私が暴れたら叩っ切ってね、死なない程度に」
「何言って」

スピリッツ・アウェイでアヌビス神に触れる。その瞬間、ドクリと心臓が跳ねたがそれも一瞬だった。無事取り込めたようだ。

「よし、行こうか」
「…お前も大概無鉄砲だよな」
「ポルナレフにだけは言われたくないよね、それ」
「んだと!」

言い合いをしながら遺跡を出ると探しに来てくれたらしいジョセフおじいちゃん達が見えた。はぐれたことを叱られたが、全面的にポルナレフが悪いと思うとちょっと納得がいかない。

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