ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す。目の前の光景を受け入れたくない。でも、そこに確かにおばあちゃんは、物言わぬ存在として横たわっている。
ズキズキと頭が痛む。ぼろぼろと零れる涙を止められない。
「マリカ…こ、れは」
どれだけの間そうしていたのだろう。いつの間にかディアボロが茫然と立ち尽くしていた。
「お兄ちゃん…」
緩慢な動作で顔を上げれば、真っ青な顔でこちらに近づいてくる。
「何が、あったんだ」
「な、にが…」
何がって。おばあちゃんが撃たれて。私も殺されかけて、それで、それで。私はあの男を。
嗚呼、あの男は、今苦しんでいるのだろうか。少しでも、あの男があの子に植え付けた恐怖を味わっているのだろうか。
あの男の事を思い出した瞬間、一段と酷い痛みが頭に走る。視界の端に居たスピリッツ・アウェイが、頭を振る。それは、どういう意味、なの?
そして私とディアボロの間に、何かが転がった。…いや、何かではなくて、男"だった"ものだ。
それは、何を見たのだろう。首には自分で掻き毟ったのか何本も赤い線が刻まれ、――その眼は抉り出されている。ぽかりと開けられた口の中にはそこにあるべき舌が噛み千切られていた。
「なっ…!」
「そいつが、あの子も、おばあちゃんも殺したの。だから」
私がそいつを、殺したの。その言葉にディアボロがぎこちなくこちらを振り返る。
彼はまだスタンドの事を知らない。一体私が何を言っているのか、何をしたのか分かりっこないだろう。
でも、そんなことどうでも良かった。私は、この男を、殺したんだ。
「分かった」
「え…」
何が、分かったのだろうか。その疑問に答えることなく、ディアボロは私に上着を被せると男を持ち上げた。
「…詳しいことは後で聞く。俺はこいつをどこか人目のつかない所に置いてくる」
「な、にを」
「お前は人を呼んで来い。おばあさんと居たら男が押し入ってきて、おばあさんを撃った。…お前も殺されそうになった所に俺が来て逃げて、俺はそれを追った。そう言え」
彼は、何を言っているんだろうか。
「俺は見失ったと報告する。この死に方じゃ俺たちは疑われない。…どんな異常な死に方でも、これは自殺にしか見えないからな」
分かったな。私がなんとか頷くのを見届けると、ディアボロは雨に紛れるように外へと飛び出して行った。
私はそれをまるで現実感のない中見送って。彼に言われた通りにするためにのろのろと立ち上がる。
その瞬間込み上げてきた吐き気に逆らえず、胃の中の物をぶち撒けた。
噎せ返る様な血と吐瀉物の臭いが充満する。喉を焼く胃液の苦さを感じながら、声を上げて泣いた。
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