神隠しの少女 | ナノ






今日の部屋割りは承太郎とジョセフおじいちゃんと言う身内だけの割り振りになった。ジョセフおじいちゃんはアヴドゥルさんと打ち合わせがあるとのことでそそくさと出て行ってしまい、承太郎と二人それぞれのベッドの上で大の字に寝転んでいる。

「…あ、そういやあの後他のスタンド使いって来たの?」
「ポルナレフとアヴドゥルの奴がジャッジメントとか言う野郎に襲われたな」
「ほう」
「後は…ああ、潜水艦でハイプリエステスと戦ったな」
「潜水艦!」

いきなり大声を出した私に身動ぎした承太郎を尻目に頭を抱える。そうだよ!ハイプリエステス戦と言ったら潜水艦じゃん!ああ…人生にもう二度とないであろうチャンスを逃した…!
潜水艦…潜水艦いいなあ。

「あ、てかハイプリエステスって確かミドラーさんのスタンドじゃん」
「…ちっ」
「え、なんで舌打ちされたの?っていうかあの美人さんに酷い事してないだろうね!」
「…を…った」
「聞こえないよ!?」
「…奥歯叩き折った」

承太郎の言葉に思わず頬を押える。いや、本当なら歯全滅なのは知ってるよ?でもそれにしたって奥歯が砕けるとか本当耐えられない痛みだろそれ。

「…それでもお前が言ったから手加減はしたぞ」
「あー…うーん…」

そう。あの時承太郎と別れる時に女のスタンド使いが来たら良くしてもらった人かもしれないから、出来る限り手荒にしないでほしいと伝えておいた。承太郎なりに譲歩した結果だと分かってはいるが…。

「…き、傷の具合は」
「…多少腫れてはいたが、まあ見れねえ顔じゃなかったぜ」
「そっかー…」

まあジョセフおじいちゃんの義手のクオリティを見るに、SPW財団の技術なら綺麗に治してもらえるだろう、多分。

「なあ」
「んー?」

承太郎の方を向くとなんだか真剣な顔をしている。思わず背を起こして姿勢を正した時に、ジョセフおじいちゃんが戻ってきた。目が合うと優しく笑ってくれたが、それも一瞬。怖い顔になって私の正面に椅子を持ってきて座る。

「茉莉香」
「…はい」
「この馬鹿者!」

その怒声を皮切りにジョセフおじいちゃんからのお説教が始まってしまった。一人で敵と対峙するなんて危ないことをしてはいけない、勝手な行動をしたら心配する…ごもっともすぎて何の反論も出来ないのが余計辛かった。

「分かったのか」
「…はい」

ふう、とため息を吐いたジョセフおじいちゃんの瞳に暗いものが映りこむ。きっとこれ以外に聞きたいことが山ほどあるのだ。…私の過去についての事とか。だけれど優しいからそこに切り込めない。私が傷つかない様にと最大限気を使ってくれているのがひしひしと伝わってくる。けれどまだ流石に自分のしてきたことを自ら全て話す気にはなれなかった。きっとジョセフおじいちゃんも承太郎もホリィママの様に受け止めてくれるだろう。けれど、今この旅の中で更に余計なものを背負い込ませるのは流石に気が引けた。

「…少し外の空気吸いながら反省してきます」
「一人での行動はいかんと今」
「屋上に行くだけだよー。直ぐ帰ってきますー」
「遅くなったら承太郎を迎えに行かせるからな」
「屋上に居なかったら分かってるな」
「おお怖い。反省してるって言ってるのに二人とも酷いわー」

棒読みで泣き真似なんかしてみる。先程までの気まずい空気が霧散したのを確認してから部屋を出た。
屋上まで行くと冷たい風が頬を撫でるのが気持ちいい。適当に座り込んでいると後ろで扉の開く音がした。もう迎えに来たのかと振り返ると、ポルナレフが立っている。
いつかのデジャブの様な光景にお互い一瞬固まってしまった。何も言わず踵を返すポルナレフを思わずひきとめる。

「せ、折角来たんだから話し相手にでもなってくださいよ」
「…ああ」

少しのスペースを開けてポルナレフが座る。強い警戒心は感じないものの、何かあればすぐに反応できる距離に人知れずため息を吐いた。

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