神隠しの少女 | ナノ






ボロボロになった車でなんとかアスワンまでたどり着く。急いでアヴドゥルさんとンドゥールさんを病院に運び込んだ。

「傷が浅くて助かりましたよ」
「うむ。じゃがこの男の方は今晩はまだ意識が戻らんかもしれんとの事だ」
「承太郎よお、ちっと強く殴りすぎたんじゃねーか?」
「あの状況じゃ仕方ねーだろ」
「まあまあ、こうして全員問題なく旅を続けられるんだからいいじゃないか」
「うむ…とりあえず今日はここアスワンで泊まろう。明日意識が戻り次第あの男には聞きたいことがあるしな」
「テレビもあるし今の内に覗いちまえばいいじゃねえか」
「この男の忠誠心の強さから言って無理に見たとなりゃあまた死にかねねーぜ」
「…こいつは敵だろ?んな気を使う必要があるのかよ」
「だが自棄になられて周りの人間まで巻き込まれても困るぞ」
「それに元々茉莉香が来なけりゃ死なれてただろうしな。情報が引き出せなきゃ引き出せねえでもそう変わらねえぜ」
「…まあ皆がそう言うならそれでいいけども。にしてもお前また随分といいタイミングできたじゃねえの」

ポルナレフのその言葉に漸く皆の方を向く。こちらを見ていたポルナレフの顔は冗談とも本気ともつかないものだった。へらりと笑って肩を竦める。

「ヒーローって言うのはいつだっていいタイミングで現れるものでしょう?」

ぽかんとしたポルナレフにもう一度肩を竦めて再度ベッドに眠るンドゥールさんの寝顔を見る。

「…で、これからどうする」
「ここに居ても仕方ないしのう。…とりあえずホテルも必要じゃし外に出るか」
「私はここに残っててもいい?」
「かまわんが…今日中に起きることはないそうじゃぞ」
「それでも出来たら側に居たいんだ。…それが責任だと思うし」
「そうか。…ホテルが決まったら承太郎でもよこそう。大人しくしてるんじゃぞ」
「はーい」

連れだって出ていく五人を見送って、寝ているンドゥールさんの頬を一撫ですると、立ち上がって背伸びを一つ。さて、さっさともう一つ片付けてしまわないと。


「ウケッウケッそ…そうだよお兄ちゃん!そ…その紅茶に毒を入れれば…ぼ、ぼく等の勝ちだ!」
「へえ…そうなんだー」

キッチンの片隅で蹲っているボインゴに覆いかぶさるようにしてそう言うと大きく肩が跳ねる。叫ぼうとしたその口を塞いで、シーっと指を立てた。

「駄目だよボインゴ。大きな声を上げたら承太郎たちにばれちゃうよ?」

そう言いながらトト神をそっと奪い取る。やはりもう既に最新ページには紅茶を飲む承太郎たちの姿が描かれていた。『ヤツらは今後の計画を立てるのに夢中で……毒入りの紅茶を飲んでしまいました。ゴク!兄のオインゴが紅茶にすぐ効く痺れ薬をもったからですバンザァーイ!』

「痺れ薬ねえ」

よいしょ、とボインゴを抱きかかえると、もぞもぞと動いたボインゴが不思議な顔をする。

「と、と、止めないの」
「だってトト神は絶対当たるんでしょ?なら止めても無駄だし。あ、ほら承太郎たちに紅茶が出たよ」
「え!」

店では出された紅茶を五人が受け取り、口にしようとしている。腕の中のボインゴが喉を鳴らしたのと同時に、口を付ける。…が、イギーが飛び込んできて他の客のケーキを奪い取る騒ぎが起きる。承太郎たちは口に含んだ紅茶もすべて吹き出して、イギー達を追って行った。

「…あーあ。残念だったねえ」

悔しさに顔を歪めたオインゴがこちらを向いて、ピシっと固まる。それに笑顔で手招きをしてあげると、恐る恐る近づいてきた。

「あ、アンタも来てたのかよ」
「トト神は何も現してなかったのかな?」
「こ、こ、ここであいつらと出会うところ、から、だったから」
「ふーん…で、今はどうなってるんだろうねえ」

私の言葉に二人がトト神を覗き込む。
『あと一歩だったのにィ!オインゴ兄はものすごくくやしがりました。そして弟のボインゴの所に行くと茉莉香がいました。茉莉香は二人に承太郎を襲うのをやめるよう言いましたが、オインゴとボインゴはきっぱり断ったのです。カッコイイ―!』

「…さて、一応聞くけど。彼らを襲うのをやめる気は?」
「あるわけねーだろ!」
「な、な、ない!」
「そりゃ勇ましい。…でも続きが出るのを待つべきだったかもね。ああ、でも変えられないんだっけ?」

へ?っと間抜け面をする二人の上に、金槌やら大きい石やらがドサドサドサッと次から次へと降ってくる。倒れこんだ二人に留めとばかりに漬物石が背中に乗って、呻き声も絶えた。ボインゴの石が小さいのは最後の情けである。
投げ出されたトト神を拾い上げると、先程の続きが出ている。『でもオインゴとボインゴは怒った茉莉香にボコボコにされてしまいました。せっかく勇気を出したのにねボインゴ!でもくじけちゃダメだよボインゴ!人生とはそういうものだから。兄弟は仲良くリタイアしてしまいました。承太郎たちは襲われたことすら気づかず闘いは終わっていたのです』

「…ちゃんちゃん。なんてね」

トト神をボインゴの上に置くと、子供が倒れてる!と大きな声で叫ぶ。店内の大きな音に驚いていた客が集まってきたので、姿をくらませた。まあ、これでちゃんと病院に運んでもらえるでしょ。

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