神隠しの少女 | ナノ






「自分がいやなものをひとにやらせるなッ!どおーゆー性格してんだてめーッ」

言い合いをしている二人の側にじわじわと水が湧き上がっていく。呆気にとられている内に手の形にまで形成された水が、その尖った爪を振り下ろし――。

「アッ!かっ!花京院!」
「ぼ、ぼくは無事だ!今一体何が!」
「水だッ!もうすでに水筒からは外に出ていたんだッ!血といっしょにッ!」
「「スタンド」が水筒の中に潜んでいたのではなくて!「水」がスタンドなのだッ!」
「そ、そして今!花京院を押し倒して救ったのは!」
「茉莉香!」

こちらを見て驚く皆に車の中から軽く手を振る。先程まで呑気にガムを噛んでいたイギーが、警戒したようにこちらを見て姿勢を低くしていた。

「ポルナレフさん!典明君!後ろ!」

ポルナレフの手の隙間から染み出た水がまた攻撃態勢に入る。予想もつかなかった位置に現れたせいで一瞬反応が遅れたポルナレフに、緊張感が走った。しかし、側におかれた遺体の腕時計のアラームに反応して水は明後日の方向に攻撃を仕掛ける。

「そのスタンドは音でこっちの位置を把握してるの!急いで車に!」

承太郎たち三人は側に居たため即座に乗り込めたが、ポルナレフと典明君の二人は多少距離が有った。走り出すが、ポルナレフの足が切り裂かれる。辛くもそれをジョセフおじいちゃんがハーミットパープルを使って引き上げた。

「…地、地面にしみ込んだ」
「敵は音を探知して動くわけだから我々に姿を見せないで土の中を自由に移動できる。地面から我々が気付く前に背後からでも足の裏からでも攻撃が可能!しかも本体は遠くにいることができる」
「ポルナレフ…怪我は平気か」
「ああ」
「…すいません。私がスタンドを使っていれば怪我をさせずに済んだんですが…」
「なんでスタンドを使わなかった?」
「…このスタンドの使い手…ンドゥールさんはDIOの館で何度も会っててね。私のスタンドの事も知ってるから、急に足音が絶えればここに来てることが直ぐにばれちゃうんだよ」

原作の流れからして会話をしていても個人の判別は出来ないだろうとは思うが、出来る限り小声で話す。…正直ンドゥールさんのあれは聴覚を磨き上げたというより超能力の一種と言っていいと思うんだよね。そして彼ならもう気付いていてもおかしくないと思わせる凄みが有るッ!

「ンドゥールさんはDIOのお気に入りの一人だからね…DIOのスタンドについて何か知ってるかもしれないし、とりあえず9栄神については私よりは詳しいはずだよ」
「9栄神?なんだ、それは…」
「9栄神とはまさか…」

占い師であるアヴドゥルさんは何か気付いたらしいが、悠長にこの話をしている暇はないらしい。イギーが外に飛び出した瞬間ガクンと車体が傾ぐ。

「なにィーッ!」
「タイヤが水の中に!や…やばい……だめだ引きずり込まれる!」

皆が後ろの方へ移動していく。私も承太郎に抱えられるようにして最後部へと移った。

「承太郎」

皆が慌てる中、車はどんどん垂直に近づいていく。そんな中、少し強い口調で承太郎を呼べば、皆が静まり返った。

「このままじゃ滑り落ちるなり、振り落とされるなりするのは時間の問題だよ。落ちれば皆どこに居るかンドゥールさんには丸わかりになる」
「じゃあどうすんだよ!」

パニックになりかけているポルナレフを睨んで無言で制止する。

「ンドゥールさんの忠誠心は私が知っている限り一・二を争うの。…万が一自分が確保されるとなれば、自殺することも厭わない筈」

息を飲んだ一同を見渡してから、もう一度承太郎を見る。

「だから、どうにかしてンドゥールさんの気を引いて欲しいんだ。その隙に私も彼の所に向かうから」
「だ、だがそれには!承太郎の危険も伴う筈!それにその男を見つける手立てはまだ見つかっておらん!」

ジョセフおじいちゃんの言うことももっともだ。だけれど私は承太郎から視線を外さずに見つめる。ふと表情を緩めた承太郎が頷いた瞬間、前輪が切り落とされ車は勢いをつけて倒れた。
皆が一様に放り出される。私はスタンドを使って、もう一度車の上に待機した。…私の重さで何か音が違ったりしないか緊張が走る。
水が沈み、息を飲む。承太郎はどうこの場から切り抜けるか考えているようだ。そうこうしている間に、アヴドゥルさんが腕輪を外し始める。

「アヴドゥルさん…!」
「姿を見せた所を死なん程度に蒸発させてくれる!」

小声でそう言いながらアヴドゥルさんが腕輪を投げた。止めるにはもう遅く、軽い音を立ててアヴドゥルさんの腕輪が砂に落ちる。アヴドゥルさんを救うか否か。胸の内で激しい葛藤が始まるが、私はそれを無理やり抑え込む。…彼は死なない筈だ。私が居るせいで全てが全て決まった通りに進むわけではないと分かっている。それでも、私は彼らの覚悟を、生きる力を信じるべきだともう知っていた。それにDIOの指令もある。あのンドゥールさんのがそれを違える筈がないと言う信頼にも似た確信があった。
結果、アヴドゥルさんのマジシャンズレッドはゲブ神を掠めただけで、反対にアヴドゥルさんの肩が大きく切り裂かれた。体勢を崩したアヴドゥルさんが立て直そうとした音に反応して、戦闘不能まで陥ってないと判断したゲブ神がまた攻撃しようとする。その隙に承太郎が走り出した。

「じょ…承太郎!」
「駄目だ!」
「バ…バカな事をッ!」

慌てる三人と対照的に承太郎は迷いなく一直線に走り―――。

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