神隠しの少女 | ナノ






船旅を終え、無事にアブダビに辿り着くと、ラクダを調達した。じじいの失態やらを笑いつつ何とか全員ラクダに乗ってセスナ調達を目指す。途中の砂漠でなんとも間抜けなスタンドに襲われたが、無事撃退してヤブリーン村に辿り着いた。

「くそ、笑いすぎて顎がいてえぜ…それにしても間抜けなスタンドだったよなあ、おい」
「あれに暫く気付かなかったって言うのも恥ずかしい話だな」
「一番恥ずかしいのはちっとも気づかなかったじじいだろうぜ」
「そ、その話はもういいじゃろう!セスナ購入の話は無事着いた。今夜はここに泊まって明日出発するぞ!早く寝ておけ!」

部屋に入ると、疲れが出たのか急に眠気が襲ってくる。シャワーもそこそこにベッドに入り、眠りに落ちた。


ガツン、と頭に衝撃を受ける。僅かに意識が浮上して、目を開けようとすると誰かの気配を感じた。…一人ではない、何人もの人間が周りを囲んでいる。

「おい!なにやってんだ、起きちまったじゃあねえか!」

きいきいと甲高い声に、まだ霞んでいる目を向ける。起き上がろうにも体を拘束されていて動けないことに気付いて、意識が急速に浮上した。

「くそっ!殺さねえ程度に殴っちまえ!死にさえしなきゃDIO様も文句は言わねえだろう!」

開いた目の先には、赤ん坊。…赤ん坊が達者な口で周りにいる男達に指示を出していた。隣に転がっている仲間は皆自分と同じように拘束され、まだ眠っているようだ。
唖然していると、頭に強い痛みが走った。後ろに居た男に何かで殴られたようだ。その上、口元に布を当てられる。一気に朦朧としていく意識の中、スタープラチナを繰り出した。
意識を取り戻すために、なんどか床に頭を叩きつける。その間にも破壊音と、悲鳴が上がっていた。意識がはっきりするのと、周りが静かになったのはほぼ同時だった。スタープラチナに拘束を解かせて、立ち上がる。いまだに足元がおぼつかないことと、部屋での急速な眠気から何か盛られたのかもしれない。
暗い中辺りを見渡すと、数人の男たちが倒れ伏していた。そこから少し離れた所で、さっきの赤ん坊が逃げようと必死に這っている。それを大股に歩き寄って掴まえた。

「てめえ…なにをした」
「ば、ばぶー」

この期に及んで誤魔化そうとしているのか、赤ん坊のふりをするそいつにスタープラチナを見せる。すると、びくりと震えた。やはりどうやら先程の振る舞いは寝ぼけていたわけではないらしい。
とりあえず掴んだまま寝こける三人に近づいて何度か揺すれば、目を醒ました。

「ふぁ〜あ…なんか変な夢見てた気がすんなあ…つーかなんか顔がいてえんだが…」

一人なかなか起きなかったポルナレフは数度頬を叩いたせいで、頬が赤くなっている。が、それを無視して赤ん坊を投げ渡した。

「うお!なんだこいつ」
「敵のスタンド使いだ。明かりはどこだ…?」

目を凝らして見つけたスイッチを押すと、部屋の中がよく見えた。部屋というよりは、納屋か何かだろうか。
部屋のあちらこちらにスタープラチナに殴られた男達が転がっている。幾人かは微かに呻き声をあげているが…。
ピクリとも動かない男の内一人に近づいて脈をとる。…先程の赤ん坊の発言から薄々感付いてはいたが、その男はもう息をしていなかった。あの状況で手加減をする余裕はなかった。そう言い訳するように頭の中で一度唱える。

「承太郎…」
「どうした花京院」
「いや。…ありがとう、君のおかげで皆助かったみたいだ」
「ああ」

ポルナレフに捕えられた赤ん坊はじじいのハーミットパープルに縛り付けられていた。

「貴様!ワシらをどうしようとしていた!」
「確か殺さなければいいと言っていたが…どういうことだ?お前は俺達の命を狙ってきたんじゃねーのか」

びくりと体を跳ねさせた赤ん坊は、きょろきょろと辺りを見回してから口を開いた。

「お、俺はあんたたちの命なんか狙ってねーぜ!DIOの命令で館まで連れて行こうとしただけなんだ!心の底から誓って危害を加えるつもりなんかなかったぜ!だ、だから助けてくれえ!」

憐れみを誘うように泣きじゃくる赤ん坊の襟をひっつかんで持ち上げる。

「館まで連れて行くってーのはどういうことだ」
「だ、だからよお!DIOから命令が出たんだよ!あんた達を殺さずに館まで連れて来いってな!俺が聞いたのはそれだけだよう、他の事なんて知らねえよお!」
「…どういうことじゃ?」
「分からねーが…とにかくここを離れるべきだろうぜ。…死人が出た以上、な」

俺の言葉にじじいが目を剥く。どうやらまだ気づいていなかったらしい。辺りを見回して渋い顔をした。

「…どうやら格好を見るにこの辺りの人間ではないらしいな…生きてるものも暴れんように縛ってどこかに隠しておこう。朝になったら財団の人間に連絡もつくじゃろうしな」
「この間から迷惑をかけ通しですね」
「仕方あるまい、…承太郎も気に病むなよ」
「…花京院が言っていただろう。ここまでこうなったことがねえことが不思議だったとな」

そう言いながら微かに震える拳を隠す様にズボンに突っ込む。覚悟はしていた。この旅に出る時に何をしてでもDIOを倒すと。犠牲が出ることも出すこともあるだろう、そう考えていたからこうなったことに後悔はない。
ふっと一瞬茉莉香の顔が浮かんだ。茉莉香はこのことを知ったらどんな顔をするのだろう。分からなかったが、こうなったからこそあいつの思いが少し分かったと言えば怒るだろうか。



歪な連帯感
守るために何かを壊すことは、仕方がないと

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