神隠しの少女 | ナノ






着替えた花京院たちを連れてじじいが戻ってきた。茉莉香達が居ないことに不思議そうな顔をするが、出てった、とだけ告げる。じじいは戸惑っていたが、一度大きくため息を吐いて顔を上げた。

「…とにかく、今日中にガラチを出よう。もう船の準備は出来とる。荷物も今急ピッチで集めさせているしな。アブダビまでなら何とかもつじゃろう」
「茉莉香は…」
「あの子のスタンドならどこに居てもあの子が来ようと思えば合流できる。…来ようと思えば、じゃが」

じじいの言葉に誰もが言葉を失う。誰も何も言わないまま機械的に荷物を纏めて宿を後にした。港に泊めてあった船に乗り込む。少しばかり狭苦しい船内に息が詰まった。

「ではジョースターさん、出発します」
「ああ、何か異変が有ったら直ぐに呼んでくれ」
「誰か外で見張ってた方がいいんじゃねえかジョースターさん」
「そうじゃが…承太郎、…あの子は何か言っていたか?」

じじいの言葉に顔を上げる。全員が俺の方を見ていた。

「…すまねえ、と」

ぽつりぽつりと茉莉香が言っていたことを伝える。拳銃に対するトラウマと…祖母の仇を討ったこと。本人の居ない場で言うのは多少憚られたが、自分だけで背負うには重すぎた。

「そう、か…そうじゃったか…」
「何か、知ってたのか」
「う、む…茉莉香の祖母を殺した犯人が奇怪な死に方をしたというのは聞いておった。とはいえ自殺としか言えぬ死に様だったとも聞いていたが…そうか、あの子のスタンドだったのか…」
「奇怪な死に方?どういうことだそりゃ」
「…いや、もうそれは過ぎたことじゃ、今更話すことでもなかろう」
「…でもよお、承太郎やジョースターさんにゃ悪いが…本当にあいつを信じてていいのか?あの船で襲ってきたスタンド使いだって結局死体は見つからなかったんだろう!?あいつはあの船に居た、それはあいつも認めてたじゃねえか!」
「海流に流されたのかもしれんし、どこかの船に拾われたのかもしれん。それにもし万が一!茉莉香がワシらの敵だったとしたらわざわざ味方を殺すはずが無かろう!」
「それは…そうだが…。でもよお、だとしても!あいつの行動には不可解なことが多すぎるぜ!Jガイルの時だって、あいつは姿を消していたじゃあねえか!」
「ではその時に茉莉香が何かしていたという根拠でもあるのかポルナレフ!」
「落ち着いてください!ジョースターさんも、お前もだポルナレフ」
「花京院…」
「確かに茉莉香には不可解な行動も多いかもしれない。だけどよく考えてください。エンヤ婆と戦った時だって茉莉香は疲労困憊になりながらも承太郎を助けた。パキスタンに向かっていた時の車のスタンド使いにしてもそうだったじゃないか。今回のことだって、結果としてボクを助けようとしてしてしまったことだ、そうだろう?」
「…そりゃあ、まあ」
「第一あれが敵のスタンド使いだったとしたら、ボク等だって容赦はしなかっただろう。敵はボク等の命を狙ってきているんだ、こちらだって手加減している余裕はない。…今までそういったことがなかったことの方が不思議なくらいだ」

花京院の言葉に二人とも押し黙る。俺は…。

「俺は、あいつを信じる。あいつが…茉莉香が何を仕出かそうと、俺達を裏切るような真似はしねえとな」
「…ボクもだよ、承太郎」

笑いかけてくる花京院に一度頷いて、帽子を深く被りなおす。…なぜあの時、こう言ってやれなかったのだろう。どんなことがあっても俺は信じていると。そうすればあんな顔をさせずに済んだかもしれないのに。

「…そりゃあよ、オレだって信じてえけど…あー、くそ!これじゃあ俺が悪者みてえじゃねえか」
「まあお前の気持ちも分からんではないポルナレフ。だが…あの子を信じてやってほしい。あの子は…ワシらの事を大切に思ってくれとる、それは間違いない」
「それはまあ…見てりゃ分かるけど。…外見張ってくる。ついでに少し頭冷やしてくらあ」
「ボクもついていこう。お前一人じゃ心配だ」

花京院とポルナレフが出て行って、じじいとオレの二人が取り残される。静かな船室で、じじいが口を開いた。

「あの子はわしらが思っていた以上に辛い思いをしてきたんじゃなあ…」
「そう、だな。さっきの話だが…奇怪な死に様ってーのはなんだったんだ」
「…過ぎたことじゃ」
「…そうか」
「…あの子に初めて会った時、もしかしたらその男を殺したのはあの子かもしれん、と思った」
「どういうことだ?」
「言葉で伝えるのは難しいかもしれんが…強いて言うなら目、かのう。子供とは思えん昏い目を時たましてな、家族を失った悲しみだけというには昏すぎた。ホリィに引き取られて、お前と仲良くなるにつれそんなことはなくなってきたがな」
「気付かなかったな…」
「仕方あるまい。わしだって昔の事が無ければ気付かんかったろう。お前は昔話した事を覚えているか?」
「…ああ、柱の男だったか?正直こんなことになるまで信じちゃあいなかったがな」
「突拍子もない話じゃからなあ…あの戦いでわしは親友を亡くした」

そんな話は初耳だった。いつも笑いながら世界を救ったヒーローなんじゃ!と語っていた姿に子供を楽しませるおとぎ話だとばかり思っていたが…。しかし、今は酷く悲しい目をしていた。

「元は人であった吸血鬼を幾人も滅してきたし、巻き込まれて亡くなった者もおった。その親友とて、わしがもう少し上手く事を運べていたら死なずに済んだのではないかとよく自分を責めたよ。戦いが終わってしばらくは、夜中に飛び起きることもあった。そんな時鏡に映った自分の目と、あの子の目はよく似ていたよ。それを救ってくれたのはスージーQやホリィ…そしてお前じゃ承太郎」

フッと笑ったじじいは、俺の頭をがしがしと撫でる。それはまるで幼い頃と同じように。

「ワシのように茉莉香を救ってやっとくれ」
「…言われなくてもそのつもりだぜ。それにあんたにだって協力して貰わなきゃあなあ」
「ふ、言いおるわ小童が」

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