神隠しの少女 | ナノ






あの惨状を見た後。私はディアボロに息があるのを確認し、急いで家へと移動した。思ったよりも早い帰宅に驚いたおばあちゃんに、事件のことを告げる。真っ青になって警察へと電話をしたおばあちゃんが私の無事に涙するのを見ながら、私はあの男の顔を思い出そうと必死だった。


被害者の少女は、私の友人だった。冷静に見ていなかったから気付かなかったが、彼女の衣服は乱れ、…乱暴を受けた形跡が有ったらしい。ディアボロは後頭部を殴られ、意識を失ったが、幸い脳震盪で済んだようだ。
事件が発覚してから数日。村は天地が引っ繰り返ったかの様である。無理もない。今まで大きな事件が起こったこともない本当に平穏な田舎だったのだから。そこにこの大事件では対応もままならないのだろう。何度目かの事情聴取から解放され、教会で休むディアボロの元へと向かった。

「具合、どう?」
「ただの脳震盪だからな。もう問題はないよ」

そう言って笑う彼の頭部に巻かれた包帯が痛々しい。

「…それよりも、友達だったんだって?」
「…うん」

俯く私の頭に大きな手が乗せられて、思わず涙腺が緩む。
一体、誰があんな酷いことを彼女にしたというのか。あの子は優しくていい子だった。誰にでも好かれる、そんな子だったのに。

「顔が、思い出せないの」

確かにあの一瞬、あの男は私の方を振り返ったのだ。なのに、私にはその顔がとんと思い出せない。背格好すら曖昧で、これでは何の役にも立ちやしない。

「あまり、自分を追い込むなよ」
「…うん」
「…今日はお祖父さんは見回りの日だろう」

その言葉に頷く。あの事件から村の男達は手分けをして見回りを行っていた。

「後で家に行くからそれまで戸閉まりには気をつけろよ」
「うん」

もう一度頭を撫でられてから、部屋を出る。窓に映った私は酷く情けない顔をしていた。



「行ってくる。鍵を掛けて待って居なさい」
「気を付けてくださいね」

おばあちゃんと二人おじいちゃんを見送る。ディアボロと交代すると言っていたから、彼が来るまでの間私がこの家を守らなくてはいけない。背後にスピリッツ・アウェイを漂わせながら、唇をかみしめた。

「風が強くなってきたわね…」
「そうだね…」
「マリカ、悪いんだけど二階の雨戸を閉めてきてちょうだい」
「分かった」

ビュウビュウと風が鳴り響き、空が暗くなっている。もしかしたら一雨来るのかもしれない。雨戸を閉め、戻ろうとしたその時。一発の銃声が耳を劈いた。
転げ落ちるかのように階下に降りれば、そこには拳銃を手に提げた男と――。

「おばあちゃん!!!」

血に沈む祖母の姿が有った。

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