神隠しの少女 | ナノ






そんなに日数が経ってはいない筈なのに、妙に懐かしく見える屋敷を前に私はさっきから深呼吸を繰り返していた。

「まだ入らないのか」
「いやちょい待って、まだ心の準備が」
「どれだけ準備すれば気が済むんだ」

呆れた顔をするダン君に謝っていると、見慣れた顔が門から覗いた。

「…茉莉香とダンちゃんだー!」
「あー、ラバソだー」
「よう間抜け面」
「ダンちゃん久しぶりに会ったのに酷くね!?」

げらげらと笑うラバーソールに肩の力が抜ける。

「にしてもなんか気配がすると思って見に来たらお前らかよー」
「お前らだよー。で、何か変わりはあった?」
「いんや。平和で平和でボケちゃいそう」
「元々お前の頭の中はボケてるだろう」
「ダンちゃん上手い!って言うか馬鹿!」
「はいはい、漫才はそこまでにしよ」
「はーい。にしても聖子さん心配してたぜお前が帰ってこないって?」
「へ?」

人の母親をサラッと聖子さん呼びしているのにも驚いたが、心配してるってことは…。

「承太郎たちから連絡、来たの?」
「ん?前が具合悪くて一旦こっちに帰って来るって言ってたらしいけど…元気そうだな」
「ああ、うん」

その内容にホッと息を吐く。そうこうしている間に足音が二つ。

「ラバーソール君大丈夫?」

門から顔を出したのはホリィママだった。その後ろにはデーボさんが立っている。ホリィママの大きな瞳が更に見開かれて…ジワリと涙が浮かんだと思ったら、私は暖かい両腕に抱きとめられていた。

「茉莉香ちゃん…!心配したのよ!?パパから連絡があってずっと待ってたのに中々帰ってこなくって…!」
「…うん、ごめんなさい」

本当に心配してくれていたのだと、その声の暖かさと抱きしめられた腕の力から伝わってきて息が詰まった。震える両手を背に回せば、ギュッと力が籠る。

「体調はどう?」
「それは私のセリフよ!大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと熱出しちゃったけど今はもう下がったし」
「そう…私もだいぶ良くなったのよ。…茉莉香ちゃんのおかげね」

優しく頬を撫でられて照れくさくなる。そっと目を逸らした先で三人がニヤついてるのが視界に入った。恥ずかしいやらなんやらで殺意を込めて睨み付ければ勢いよく顔を逸らされた。…ううん、恥ずかしい。

「とにかく中に入りましょう?…あら?そちらの方はお友達?」
「え…ええ、そうですお母様」

胡散臭いまでに爽やかな笑顔を見せたダン君に思わず腕を抱く。さぶいぼ立ったわ。おおげさに腕をさすっていると、ホリィママの後ろについて歩き出したダン君にこっそり頭を叩かれる。いやだって、本当に違和感たっぷりだったんだよ…。

家に入ると胸いっぱいに畳の匂いを吸い込む。ああ、落ち着くなあ。大きく息を吐いてから居間に向かいつつ辺りを見回す。良くなったというホリィママの言葉は本当だったらしい。医者らしき人は居ないようだ。承太郎たちとの通信手段か一室に大掛かりな機材があって、そこに何人か財団の人が付いている。その中に見知った顔はいない。

「…あの人は居ないの?あの私についていてくれたお兄さん」

ホリィママにそう尋ねつつ、怪我を負ったしもしかしたらここにはもう居ないのかもしれないな、と思う。承太郎たちの動向を聞くのにいてくれたらと思っていたんだけれど。あの人たちでも教えてくれたりするかな、と考えていた私にホリィママは軽く今は出かけてるのよ、と笑った。

「あ、居るんだ。怪我は大丈夫なのかな?」
「ええ、今は財団の用事で出かけているけど…明日か明後日には戻ってくるはずよ」
「そうなんだ…」

明日か明後日、か。ジョセフおじいちゃんの予定ではガラチに一泊して翌日買い出し、その間に財団に船を手配して貰って、翌朝出発だったはずだ。つまり今日はまだガラチに泊まって、明日ペルシャ湾を横断してアブダビに向かう手筈だ。船内とアブダビでもそれぞれ一泊すると言っていた筈だから…サン戦は三日後になる。デス13はその後だから…十分間に合うだろう。

「それがどうかしたの?」
「ううん、お世話になったから挨拶したいなあって」

さて、この三日間でどこまで手を打てるだろうか。

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