神隠しの少女 | ナノ






「つまり承太郎たちを生きて連れて来いと指令が下ったと?」
「みたいだねー」

ダニエルさんが持ってきた伝言…というか連絡事項はその一言に尽きる。『ジョースター一行を連れてこい』なんて単純な一言。

「お前からしたらありがたい話だろう?」
「んー…」

訝しげな顔をするダン君に言葉を濁す。さて、この一言のどこが問題なのか。ダン君の言うように承太郎たちがとりあえず殺されるような羽目になるのを避けられる、とも言えるこの指令。しかし、実際問題これによって困ることが最低二つあった。
まずはデス13。あの赤ん坊の能力はこうなるとかなり厄介な能力だ。一人一人に掛かっていた懸賞金が無くなった今、寝ている人間から襲う必要はない。襲わずに彼らが寝入ったら夢の世界に取り込んでしまえばいいだけ。連絡して一行を館に運ばせればそれですべて済んでしまう。
後はもう少し先の話だが、ダニエルさんも非常に厄介だ。ポルナレフをコインにしてしまえば、後はそれをダシに館に連れて行けばいい。仲間思いの承太郎たちの事だ、苦も無くそれは叶えられる筈だ。
残りの刺客は力で彼らを再起不能に追い込んで連れて行くしかない以上、原作と同じに動くしかないだろうと考えられる。
だからデス13の脅威を超えれば私はしばらくの間一行を離れるつもりだった。動くべき時に動けるように、不測の事態が起きない様に。しかし、現状私は彼らの側には居ない。
戻ったとして、彼らは私を受け入れてくれる?…有り得ないとは言えないが、あの惨状の直後では無理がある。第一私自身普通に振る舞える自信がない。見た目は純真無垢な赤ん坊だけに、デス13の正体を明かすのは典明君がそうだったように酷く難しい。今の私が戻ったとして、彼の正体を糾弾して信じて貰えるだろうか。

「とりあえず少し距離を置くしかない、か」

次はサン戦だ。その間に少なくとも私は心を落ち着かせなくてはいけない。どんな目で見られたとしても、耐えられるだけの覚悟を。そう考えていたまさにその時。もうすでに私のあずかり知らぬところで歯車が狂っていたことを私は知る由もなかった。

「で、君は何をしているのかな?」
「いや、お前が何か考え事をしているようだから邪魔をしちゃ悪いと思ってな」

懐に懐中時計を隠しつつシレっとそんなことを言うダン君に埃をたっぷり含んだクッションを投げつける。咳き込んでいるが知ったことか。というかそれはお祖父ちゃんの形見だ馬鹿野郎。

パンや干し肉など豪勢とは言えない食事を終えて一息つく。

「これからどうするんだ?」
「…明日の朝にでも空条家に行こうかなあ、って」

正直なことを言えば今は家に帰りたくはなかった。今ホリィママの顔を見たらなんだか泣いてしまいそうな気がする。それに承太郎たちから連絡がいっていて、彼女にまで距離を置かれたら暫く立ち直れないのは確実だ。しかし空条家に居ないとなれば承太郎たちは心配するだろうし、デス13戦で上手く一行に戻ったとなればまた離脱出来るかは分からない。あまり頻繁に姿を消せばポルナレフや戻ってくるアヴドゥルさん辺りに要らぬ疑いをかけられそうだ。だとしたら今の内に向こうでやっておかねばならないことが山積みである。
まあこうなった以上どう思われようと形振り構わずやってもいいかなと思わなくもないが。きっとこれを人は開き直りというんだな。

「とりあえずそんな感じで」
「アバウトだな」
「…多分ね、あんまり考えすぎても今は何も上手くいかない気がしてきたからさ」
「ネガティブだな」
「元々根暗ですから。よし寝よ」
「凄い埃臭いんだが」
「外で野宿してきてもいいよ?寒いけど」
「よし寝るか」
「切り替え早いなおい」

肺が犯される…とかなんとかぼやくダン君を無視して寝る体勢に入る。明日はやることが沢山あるぞ、頑張ろう。そんな空元気を出しつつ目を閉じた。

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