神隠しの少女 | ナノ






思いもしない収穫に一人心弾ませていると、扉の向こうから人の気配がした。承太郎たちが帰ってきたのだろうかとも思ったが、時計を見ると彼らが出かけて行ってからそう時間は経っていないようである。少し待っても向こうからの動きは無い。しかし、今も尚確実に扉を隔てた先にある気配に自然警戒を強めた。
控えめにノックの音が響く。息を潜めていると、もう一度。声をかけることはなく繰り返されるそれは私が中に居ることを疑っていない。

「…はい」

扉を開けることなく声を出せば、少しの静寂。その間にスピリッツ・アウェイを待機させる。

「空条茉莉香様ですね」
「…ええ」
「SPW財団の者です。ここを開けて頂けますか」
「ジョセフおじいちゃんからは財団の方が来ると言付かっては居りませんが」
「…ちゃんと用心はしているようだね、感心感心」

堅苦しい言葉づかいとは打って変わってフランクな物言いになる。そしてそれと共に聞き慣れた声になって――。思わず扉を開ければ、そこにはスーツを着て化粧もしてないダニエルさんが居た。

「…へ?なんで?」
「茉莉香…たった今感心したというのに簡単にドアを開けては駄目だろう」
「え、あ、すいません…って言うか何故ここに」
「ふむ。まあ立ち話もなんだしね。中に入れて貰えるだろうか」
「ああ、はい。どうぞ」

一歩引けば悠々とした足取りでダニエルさんは中に入り、どさりと腰を下ろした。

「いやあ、こうして顔を合わせるのも久々だね」
「ええ。…それにしても初めダニエルさんだなんてちっとも気づきませんでしたよ」
「ふふっ、時には紳士的じゃない方々とも遊ぶんでね。ある程度の変装技術は持ち合わせているよ」
「ああ、なるほど」
「ちなみに実はこの髭も取れる」
「うっそ!」
「うそー」
「…まあダニエルさんの言うことはどこまで本当か分からないですしね?とりあえず毟って見ましょうかその髭」

じりじりと近づいていけば企業秘密だから!と笑いつつ冷や汗をかくダニエルさんと少し牽制し合って。

「で、なんの用なんですか結局」
「ああ、DIO様からの伝言と後は本当に財団のお仕事だよ」
「え。…え、財団にスパイがいるとは思ってましたけど…ダニエルさんが潜入してたんですか!?」
「潜入って言うかそのスパイ君との連絡係、ってとこかな。ほら…うちあんまり堅気に見える子少ないしね」
「…ああ、大概怪しいですもんね…」

懐かしい面々を思い返して思わず苦笑する。男性陣は殆どがムキムキだったり柄の悪さが滲み出てるし、女性陣は服装だけ整えれば問題なさそうだが…あれだけの美人ぞろいとなると目立ちすぎるだろう。その点ダニエルさんなら顔立ちは整ってはいるものの目立ち過ぎず、化粧を落とせば清潔感のある一般人の出来上がりだ。これなら財団に居るスパイと多少の接触をしても目立ちはしないだろう。ダニエルさんの口の上手さなら多少の局面は乗り切れるだろうし。

「さて、とりあえず財団のお仕事から片付けようかな」
「はあ」
「何か財団側で必要な物あるかい?」
「はい?」
「いや、これからスパイ君に会いに行く予定でね。君が何か用意して欲しいものが有ったら伝えるよ」
「…私が有利になるようなものでも?」
「君からと言わなければわからないさ」
「ではお言葉に甘えて…」

とりあえず皆の血液型にあった輸血パックを多数仕入れて貰う事と、エジプト…カイロ周辺で高度の治療ができる病院のピックアップと協力して貰う手筈を整えてほしい事を伝える。気が早いとダニエルさんは笑ったが、もう日本をたってから20日以上が過ぎていた。必ずしも原作通りに進むとは限らない今、早めに準備して損はあるまい。

「病院に関してはそちら側で負傷者が出た際に使うとでも言えばなんとかなりますかね」
「どうだろうね…些か無理がある気がしないでもないが…ま、押し通せるだろう」
「随分楽観的ですね」
「所詮は肉の芽で従ってる輩だからね。私の指示に従えとDIO様から言われている以上断れないだろうさ」
「なるほど」
「…さて、そろそろ承太郎たちも帰って来るだろうし、手早く次の話に移ろうか」
「DIOからの伝言、ですか」

小さく顎を引いたダニエルさんに少し姿勢を正す。…はてさて今この状況で彼が私に伝えたいこととは、なんなのだろうか。

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