神隠しの少女 | ナノ






「ええと…まずはさっきの私の行動について弁解させてもらってもいいかな?」

おずおずと手を上げれば、皆から注目される。頬がひくつくのを感じつつ返事を待った。ジョセフおじいちゃんが頷いてくれたので言葉を選びつつ口を開く。

「えっと…さっき私が承太郎を止めたのはダン君のスタンドが理由なんだけど…」

そこで言葉を切ってちらりとダン君を見る。視線を受けたダン君は小さく肩を竦めるとにやりと笑った。

「私のスタンドならもう既にここに居るが?」

その言葉に皆が周りを見渡す。しかし当然見つけることはできない。警戒を露わにした空気に苦笑しつつ指を出す。ついでに虫眼鏡を出して指先に焦点を合わせると…これで凝視してやっと分かるかどうかといったサイズのラバーズが乗せられた。

「えっと…見えるかな?私の指先に居るんだけど」
「はあ!?どれだよ!」

ポルナレフが近づいてまじまじと見つめる。他の皆も矯めつ眇めつ見ているものの、見つけられないようだ。持っていた虫眼鏡を差し出すと皆交互に見ていく。

「あー?いや、これかあ?」
「随分とちいせえな…」
「ううん…虫じゃないんだよね?」
「失礼だな貴様ら」
「ワシには分からん…」

老眼かのう…と哀愁を漂わせるジョセフおじいちゃんに皆だってギリギリ見える位だから!と言ったけど追い打ちだったようで余計落ち込んでしまった。…ごめんなさい。
空気を換えようと一つ咳払いをする。

「ダン君のスタンドはこの小ささを利用するんだけど…説明お願い」
「ふん。仕方ないな」

偉そうに腕組みをしたダン君が鼻高々に説明を始める。この状況でそれだけ居丈高にいられるのは凄いと思う、うん。

「私のスタンド…ラバーズは見ての通り小さい。髪の毛一本だって動かす力はないが…人を死に至らしめるのに力は必要ない」

物騒な物言いに皆の顔が引き締まる。…なんでそういうこと言っちゃうかなあ。ため息を零したいのを我慢するのが大変だ。

「ラバーズは対象の脳みそに送り込んでからが本領を発揮する。…例を見せた方が早いな」

そう言ったが早いかダン君は自分の手の甲をパシリと叩いた。その瞬間ポルナレフが息を飲み自分の手を見る。…何時の間に送り込んだのか見当もつかない。恐ろしい能力だなあと再確認させられた気分だ。原作でもダン君が陰からラバーズを送り込んでいたら全滅は免れなかっただろうな、と思う。

「どうしたんだポルナレフ!」
「わ、分からねー。そいつが自分の手を叩いた途端いきなりオレの手にも痛みが走りやがった!」
「今ラバーズはポルナレフの脳内に居る。そして私の痛みを倍以上にもして与えた、と言うわけだ。つまり、私に痛みを与えればそれは仲間やお前たち自身に何倍にもなって返るということだ。…先程は誰にも送り込んでいなかったが。良かったなあ承太郎?もしも私がラバーズを送り込んでいて、茉莉香が止めなかったら…お前のせいで誰か死んでいたかもしれんぞ?」

ダン君の言葉に承太郎の顔が強張る。言い過ぎだ、と言う意味を込めてダン君の肩を叩けば、ポルナレフが悲鳴を上げた。…ごめん。

「とりあえずポルナレフさんからラバーズ抜いてよ」
「ああ忘れていた」

そんなことある筈もないのにぬけぬけと言い切るダン君に頬が引き攣る。こいつこの状況をちょっと楽しんでやがる!

「あー…。まあさっきの行動はそう言う意味があったんだよ?分かってもらえた、かな?」
「まあ…そういう状況じゃ仕方ないんじゃないかな。驚いたけど」

典明君の言葉に皆が頷いてホッとする。…そこで一つダン君に聞いておくべきことがあった。

「…ダン君はさ、なんで私たちの前に姿を現したのかな?」

原作を読んだ時からずっと思っていた。彼のスタンドの能力、射程範囲…彼自身の性格。それらを考えれば陰から一人一人始末していけばいいだけの話だ。もちろんストーリー上そうでなくてはいけなかった、ということなのだろうが…実際にこうしてダン君と接していてどうにも腑に落ちない部分でもあった。ダン君程の守銭奴としては、承太郎たちを甚振りたいという思いより安全に報酬を求めそうなものだが。
…まあ、本当の事を言ってしまえば、納得できるだけの理由が欲しかった。彼らはこの世界で実際に生きているのだと、ストーリーに沿って全て決まっているのではないと。


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