神隠しの少女 | ナノ






ゆるゆると体を揺すられる。瞼を上げれば、先程別れた時よりも幾分老けたディアボロの姿があった。

「やっと起きたか」

魘されていたぞ、と水差しからコップに水を注ぐディアボロを見ながら、未だにはっきりしない意識を手繰り寄せて。…ああ、夢だったのかと納得した。
ほら、と差し出されたコップを受け取って一気に呷る。喉を通る冷たい感触にやっと覚醒した。

「あー…ヤな夢見た…」
「泣くほどか」
「へ?」

何のことだと首を傾げた私の頬をディアボロが撫でて、その湿った感触に自分が泣いていたのだと理解する。私の目じりをなぞるディアボロをジッと見つめてる。

「どうした」
「んー…」

訝しげな顔をする彼の服を引けば、腰を下ろしてくれる。そのまま抱き着けば何も言わずに背に手を回した。

「…お兄ちゃん」
「どうした、甘ったれて」

今では滅多に呼ばない呼び方をすれば彼が笑ったのが分かる。ぐりぐりと顔をなすりつければ、何も言わずに背を撫でる。

「…抱っこ」

そう呟やけばディアボロは笑いながら膝に乗せてくれた。

「本当にガキの頃に戻ったか?」
「…うん」

からかう様にそう言うディアボロの言葉に頷く。本当に今だけは幼かった頃のように甘えていたかった。ポンポンと子供をなだめるように背を叩かれる。

「お前幾つになったんだったか」
「12…」
「12にもなってこんな甘えられるとはな」
「悪いか」
「そんなことを言ってはいないだろう?」

くつくつと笑うディアボロにムッとして伸びてきた髪を引っ張った。

「禿ろ」
「恐ろしいことを言うな」
「大丈夫、禿てもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。愛してる」
「私はそんな自分を愛せる気がしない」
「大丈夫、禿ても何とかなるよ」
「禿るのは確定なのか…」

困ったものだな、と苦笑するディアボロは化粧もしていなくて。素顔の彼はギャングのボスには見えないが…。まあ、外でどうだろうと、私にとって彼が優しい私のお兄ちゃんなのは変わらないだろう。

「おにーちゃん。クッキー食べたいなー」
「…焼けと?」
「クッキー」
「分かった分かった。作ってやろう。だがお前も手伝えよ」
「はーい」

ディアボロの膝から降りて靴を履く。差し出された手を取って、二人キッチンに向かった。



血の繋がりなんかなくたって
彼が私にとって家族と言うのは違いない
(だけど時々寂しくなるからそれを埋めて)

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