神隠しの少女 | ナノ






「OH!GOD!」

悔しがる皆を尻目に、嘲笑うような笑い声。

「くっくっくっ悲しいな………どこまでも悲しすぎるバアさんだ。だがここまで信頼されているというのもDIO様の魔の魅力のすごさでもあるがな………なあ?」

同意を求めるように私を見るダン君に舌を出す。

「さあね。別に私はDIOを心棒してるわけじゃないから知らないよ」
「おや随分と機嫌が悪いな」
「それは私だけじゃないだろうけどね」

ダン君を取り囲むように立つ仲間たちは一様に殺気立っていた。エンヤ婆から情報を引き出せなかった焦りもあるのだろうが…優しい彼らの事だ。エンヤ婆を嘲るダン君に怒りを禁じえないのだろう。

「おお怖い。まだ自己紹介も終えていないのにせっかちなことだ」

そう言ってカップを傾けるダン君に承太郎が凄む。

「おいタコ!カッコつけて余裕こいたふりすんじゃねえ。てめーがかかってこなくてもやるぜ」
「ほう…」

目を細めるダン君に承太郎が焦れてスタープラチナで殴り掛かる。しかしすんでの所でダン君の姿は掻き消え、私の隣に移動していた。

「すまないな茉莉香」
「賢明な君の事だから私が心配しているようなことはないだろうけど…万が一を考えてね?」

ヒクり、と頬を引き攣らせたダン君に牽制の意を込めて睨み付けておく。

「おい茉莉香…どういうことだッ!」
「そいつの味方すんのかよッ!」
「…とりあえず。エンヤ婆の死体を積んで移動することが先決だと思うけど?このままじゃ警察がくるのは時間の問題だよ」

私の言葉に比較的冷静だったジョセフおじいちゃんと典明君が周りを見渡す。先程まではチラチラと見ながらも通り過ぎて行った通行人達の中に、立ち止まってこちらを見ている人数が増えているのが分かった。

「…茉莉香の言う通りの様じゃな。一度ここを離れるぞ」
「ジョースターさん!」
「ここで一発あいつを伸しちまえばそれで終わりだろうが」
「物騒なことだ。私にはお前たちと事を荒立てる気はないというのに」
「こんなことしておいて信用されっと思ってんのかてめえ!!」

一瞬即発の空気を切り裂いたのは甲高い笛の音だった。

「貴様ら!動くな!」

警棒のようなものを振りかざしながら、人込みを掻き分けてくるのは警官だろう。まだ距離がある内に急いでエンヤ婆を私のスタンドで隠す。

「ここで騒ぎが起こっていると聞いたが!」
「う、うむ…それは」
「ごめんなさい。ちょっと行き違いがあって」

口籠るジョセフおじいちゃんの後ろから顔を出す。ギョッとしたジョセフおじいちゃんの服を引いて私が前に立った。

「私たち旅芸人なんですけど…ホテルを予約した筈なのにちゃんと出来てなくって。それで喧嘩になっちゃったんです」
「旅芸人〜?」

警官は疑った目でこちらを見てくる。まあこのメンツじゃ仕方ないよな、と思いつつ手を警官に差し出した。不思議そうに見る彼の目の前で一度手を振って…掌にハンカチを出して見せる。そのハンカチの中に数枚の硬貨が乗っているのをしっかりと見せつけて。そのまま握手を求めるようにすると、ニヤリと笑った警官が私の手を取った。

「そうか、旅芸人の一座だったか」
「ええ。そのハンカチは良ければお近づきの印にどうぞ」
「おお。ありがたく受取ろう」

するりと上手く受取った警官はズボンに突っ込むと、ぐるりと私たちを見渡した。

「あまり問題を起こすんじゃないぞ」
「はい。ご迷惑をおかけしました」

頭を一つ下げると、警官は上機嫌な様子で去って行く。それを見ていた人々も興味をなくしたのかそそくさと立ち去って行った。

「さ、とりあえずどこかホテルでも取ろうか。このままじゃ本当に野宿になるよ」
「…ああ」

ダン君を警戒しながらも皆頷く。今のまま争えばまた面倒くさいことになるのは理解して貰えたようだ。一安心と息を吐き出しつつ、スタンドに収納したエンヤ婆の事を思い出す。…これ、どう処理しよう。

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