神隠しの少女 | ナノ






目を開けば心配そうに私を見る承太郎が居た。パチパチと目を瞬かせる私に承太郎が訝しげな顔をする。

「…どうかしたか」
「…ううん、よく寝たなあって」

重たい体を起こして空を見上げる。透き通った空の色に目を細めた。夢で見たのと同じ、綺麗な色。

「今どのあたり?」
「もうすぐ国境に着くところだ。体調はどうだ」
「ん。もう大分いいよー」

あの廃墟の町から二日。エンヤ婆と対峙した日に出した高熱は大分引いてくれた。霞が掛かったように朦朧としていた意識も漸くはっきりとしている。とはいえ二日間ほぼ寝たきりだった私が心配なのか、こちらを見る承太郎の視線は険しい。そんな彼に笑って見せれば、小さく舌打ちをされた。悲しい。

「エンヤ婆は?」
「何度か意識を取り戻しかけて…ご老体には申し訳ないけど今は薬で眠って貰ってるよ」
「…ああ、そう」

苦笑しつつもサラッと言ってのける典明君に笑顔が引き攣る。案外思い切りのいいことをするよね君!

「あ、ホルホースさんだ」

小さくなって座っているホルホースさんにへらりと笑いかける。

「それ何回目だよ。起きるたびに言ってんぞ」
「ええ。知ってます」
「確信犯か!意識が混濁してるのかと心配した分を返せ!」
「ははは」

笑って流しつつも確かに皆に心配をかけてしまったなあ、と内心ため息をつく。原作と違いホルホースさんがジープを盗んでないということは、本来なら国境まで一日もかからなかった筈だ。なのに二日もかかったのは私に負担をかけないように小まめに休憩を取っていたからで。…ただのお荷物だな私。
ちょっと落ち込んでいるとジョセフおじいちゃんがそろそろ着くぞと声を上げる。

「ここからカラチまでは多少距離があるからの。買い出しはしっかりしとくんじゃぞ」
「はーい」
「茉莉香の体調が良くなって良かったわい。場合によってはここで帰すつもりじゃったが」
「今からでも遅くねえだろ」
「承太郎酷い…」

乾いた笑いを上げつつ、本当にやられかねなかったな、と冷や汗をかく。私が大人しく一行から離れるわけがない事は理解してるだろうが、付いてこさせないという意思表示がてら一悶着あったかも。ストーカ…いや、守護霊よありがとう。

付いた場所は集落と言うには小さく、休憩所と言った感じだった。幾つか置いてある馬車はここまで来た人が乗り換える様だろうか。久々に自分の足でジープから降りると、大きく伸びを一つ。くらりと眩暈がしたがなんとか踏みとどまる。承太郎に見られたらまた煩かった。
典明君やポルナレフと一緒に色々見ていると、後ろでエンジン音がする。…ポルナレフはここに居るし、ジョセフおじいちゃんは品物を物色していた。もしや、と思いながら振り返ると、私たちの荷物を下ろしたホルホースさんがにやりと笑った。

「悪いがオレはやっぱりDIO側に付くぜ!姫さんが元気になったのも伝えないといけねえしな!」
「姫さんいうな!」
「そこじゃないよ茉莉香!」
「花京院もそこに突っ込んでる場合じゃねえけどな!?」

混乱して訳の分からない会話をする私たちを尻目にホルホースさんは高笑いしつつ走り去って行った。

「…二日も一緒に居て油断してた」

典明君の呟きに誰もが神妙に頷いた。

「…ま、まあ取られたものは仕方あるまい。幸いここには馬車があるしな。これを買い取ってガラチに向かおう」
「おー…」

力なく賛同の拳を上げる。…馬車か、車より酔いそうだよなあ。ホルホースさん今度殴る。

「あ、っていうか私が今ホルホースさん殴って連れ戻せばいいんじゃない?」
「病み上がりなんだから止めとけ。馬車あんだから」

たくっ、と言いつつそういうポルナレフの顔を見る。

「なんだよ」
「…あ、いや。お気遣いアリガトウゴザイマス」
「どーいたしまして」

…なんだろう、なんか私だけが気まずい様な。あれ?

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