神隠しの少女 | ナノ






茉莉香のスタンドによって傷が治った俺は無事にエンヤ婆を捕らえ、仲間の元に戻った。多少怪我はしているものの、大きな怪我は見られないことに安堵したが、その中に茉莉香が居ないことに気付いて血の気が引く。

「おい、茉莉香はどうした」
「え?…君と一緒に居たんじゃないのか?」

俺達のやり取りに、全員に緊張が走った。ジジイが砂を集めてスタンドで茉莉香の位置を探るが、見慣れた茨はピクリとも動かない。

「どういう事じゃ…?」
「茉莉香のスタンド、か?」

ホルホースの言葉に顔を上げる。俺達の誰もが茉莉香のスタンドを完全に理解できているわけではないが、先程の体験を鑑みるに茉莉香はスタンドで異空間の様なものを作り出せる筈だ。その中に居たとしたらジジイのスタンドでも補足できないかもしれない。
そのことを知らなずに不思議そうな顔をする仲間に端的にそのことを伝えると、皆苦い顔になった。

「だとすると…彼女がどこにいるかボク等には見つけられないのか?」
「第一あいつのスタンドじゃどこに出るかも分からねーしな…」
「ふむ…スタンドの作りだした空間が安全だとしたら暫くその中に居る可能性もあるしのう…」

仲間の言うことは至極もっともだ。しかし、自分には茉莉香が。格好付けてこいと笑った彼女が一人安全な場所に居続けるとは思えなかった。それに最後に見た今にも倒れそうな青褪めた茉莉香が脳裏をちらつく。
居ても立っても居られない焦燥に駆られ、一歩踏み出す。

「承太郎!どこに行くんじゃ!」
「捜してくる」
「何処に居るか分からねーのに行ってどうすんだ!」
「…だからってここにただ立ってても変わらねーだろう!」

思わず声を荒げれば、沈黙が下りた。簡単に取り乱す自分に思わず舌打ちをする。

「分かった。ジョースターさん、ポルナレフと一緒にエンヤ婆とホルホースを見張っててください。ボクも一緒に行きます」
「おいおい。オレも見張りの対象かよ?一緒に戦ったってーのに冷てえなあ」
「何言ってやがる、二回も襲いに来たくせに」
「それを言われるとつれえな」

ホルホースの軽口に重かった場の空気が少しばかり軽くなった。どういうつもりかは分からないが、助かったのは事実だろう。

「じゃあ俺は行くぜ」
「おい承太郎」

ホルホースの呼びかけに振り向く。軽薄な笑みを引っ込めて彼は口を開いた。

「姫さんの事頼んだぜ」

ホルホースの真剣なまなざしに、小さく頷き返した。


と言っても廃墟になった町の中、当てなく探すのは困難を極めた。花京院も重くは無いとはいえ幾らか傷を負っている。お互いの顔には疲労の色が見え始めていた。

「承太郎…一度戻ろう。ジョースターさんのスタンドで何かわかるかもしれない」
「…ああ。…いや、先に戻っててくれ、俺はもう一度ジープを見てから戻る」
「分かった。…見たらすぐに戻ってくれ」
「分かってる」

花京院と分かれジープの方角に足を進める。先程見た時に居なかったのは分かっているが、一縷の望みに賭けていた。
近づいても先程と全く変化がないのが見てとれる。落胆しながらも更に近づいた時。ジープの中で何かが動いたのが分かった。逸る気持ちを抑え、警戒しながら近づくと、そこには探し求めた茉莉香の姿があった。

「茉莉香!」
「…じょ、たろ…?」

真っ青な顔をして目を閉じていた茉莉香に慌てて声をかければ、薄っすらと目を開けて俺の名前を呼んだ。そのことに安堵しつつも、同時に苛立ちが湧く。

「どこ行ってやがった!」
「…心配かけて、ごめん」
「…本当にな」

本当は身を案じなければいけない事を分かっているが、声を荒げる俺に茉莉香は素直に謝った。酷く辛そうなのに、こちらに気を遣う茉莉香を見て自分が情けなくなる。そんな俺に茉莉香は微かに微笑んで。

「…承太郎」
「ああ?」
「格好つけてくれてありがと」
「…何馬鹿なこと言ってんだ」

俺が無事にここに居るのは、茉莉香が身を削ってまで俺を治したおかげだというのは、容易く想像が付いた。本来ならば自分が礼を言うべきなのに。また意識を飛ばしたらしい茉莉香を慎重に持ち上げながら、唇を噛みしめる。ああ、自分はどこまで彼女に甘えているのか。

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