神隠しの少女 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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先程と同じように勝手に動く足によって、ソファーまで体が運ばれる。動かない体を柔らかな背もたれに埋めていると、エンヤ婆がやってきた。
射程距離に入ったのを見てスタンドを出せば、エンヤ婆は喉を鳴らして笑った。

「儂を殺すのかね茉莉香。あんなに可愛がってやったと言うのに」
「…承太郎の為なら、ね」

そう言い切ったのと同時、足に鮮烈な痛みが走る。途端に靴下が濡れていく嫌な感触がした。…ちらりと見下ろせば、切り傷だったところに穴が開いている。見てしまうと尚の事
痛みが増した気がした。

「承太郎にも同じような痛みを与えてやろうかね」

エンヤ婆の言葉に、スピリッツ・アウェイが動きを止める。…私のスタンドの強みはその特異性だ。しかし、彼女が承太郎に危害を加える前に彼女を消し去ることは、出来る…のか。ジャスティスはエンヤ婆の思考と同時に動くとすれば、その一瞬で承太郎の手に穴を開けることくらいは、出来るかもしれない。
ジャスティスが開けられる穴のサイズはどれくらいだ?死体に刻まれていた程度の物か、それとも。…承太郎の掌全てを、消せるのか。動けずに睨み付けるだけの私を、エンヤ婆は満足そうに笑った。

「茉莉香…何故じゃ」

そして、一転。忌々しそうに低められた声で、睨み付ける瞳は剣呑そのもので。エンヤ婆は、私を責める。

「何故息子を、J・ガイルを助けてやらなかった」

何か言おうにも、舌は動かない。ジッと彼女を見つめれば、深々とため息をついた。

「茉莉香…儂はお前を孫の様に思っておった。なのにこの仕打ち…許せるものではない」

何も言えない私に、エンヤ婆は一方的に言葉を投げつける。怨嗟を含んだその声音に、顔を伏せたかったが、それも出来ない。

「お前はDIO様に必要な存在じゃ。儂の占いにもそう出ておる。お前が、あの方を助けると」

虚空を見つめるエンヤ婆の瞳には、何が映っているのか。ぼんやりとしているようで隙のないこの老婆を、私は出し抜けるのか。

「お前を殺しはしない。じゃが…あの子の恨みを、晴らさずにはおれんのじゃよ…お前にならば、分かるだろう?」

そっと微笑むその顔が、恐ろしい。大切な存在を失った人間が、どれほどの怒りを、恨みを持つか私は知っている。今、彼女が、どうしたいのかを。

「茉莉香…悪いが、承太郎もジョースターも…あの憎たらしいポルナレフや花京院も…皆許さん。皆殺してやる」

唯一自由になる目でエンヤ婆を睨み付ける。そんなこと、許してなるものか。しかし、エンヤ婆はそんな私を一笑に付す。

「お前は儂を殺したいほど憎むじゃろう。それでもかまわん、あの子の恨みを晴らせればのう。全てが終わった後、儂を殺せばいい。DIO様は、お前がいれば問題ない」

もう、残っているのはDIO様だけなのじゃ…。そうエンヤ婆が呟いたのと同時、足音がする。ロビーに向かったエンヤ婆が戻ってくると、後ろにホルホースが居た。
私の姿を見て驚いた様子のホルホースを尻目に、エンヤ婆は話しかける。

「親友だったのかい?」

虚を突かれたようなホルホースが、慌てて言葉を返す。なんとか取り繕おうとするホルホース。しかし、エンヤ婆の演技に騙されているだけだ。鋏を隠し持っていることを、彼は知らない。
今のうちにどうにか出来ないのか。そんなことを考えるのと同時に手が引かれて、足の傷に自分の指が突っ込まれる。緊迫した状況に霞んでいた痛みが呼び覚まされた。そしてそれは、傷を抉るかのように動く指のせいで、更に激しくなる。スタンドを出そうにも、痛みに思考が引きずられてしまって上手くいかなかった。

「茉莉香!?」

私の異変に気付いたホルホースがこちらに気を取られる。勢いよく振り返ったエンヤ婆が、そんなホルホースの腕に鋏を突き刺した。

「な…なにしやがるんだッ!」

傷を抉るエンヤ婆から逃げるホルホースを彼女は追う。なんとか距離を取ったものの、エンヤ婆は不敵に睨み付けた。

「儂のスタンド「ジャスティス」で死んでもらうわ…」

怯えの色を見せたホルホースの血が霧に吸い込まれていく。それと同時に、僅かに体の拘束感が緩んだ。それは彼を操ろうとするごとに顕著になる。傷口からなんとか手を引き抜いた。

「ホルホースさん!」

腕を口に突っ込まれたホルホースの名を呼べば、エンヤ婆が振り向いた。その隙をついて手を引っこ抜いたホルホースが皇帝を出す。しかし、それも空しく、反転された腕によって、弾丸は彼自身へと向かった。
派手な音を立てて吹っ飛んだホルホースを、見下ろすエンヤ婆。
耳の後ろ辺りで、どくどくと血が流れる音がする。ホルホースは、生きて居る筈だ。そう分かっていてもピクリとも動かない背中に冷や汗が流れる。
エンヤ婆の頭が揺れた。僅かにあげられた顔から、ぬめりと輝く目が見える。

「もうすぐ、承太郎たちもこうなる」

にんまりと笑いながら告げられたそれに、視界の端が赤く染まった気がする。


湧き上がるのは、殺意
そんなことを、許してなるものか

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