神隠しの少女 | ナノ






私の前世、とやらは20歳の時終わりを迎えた…らしい。
道路に蹲る子猫に迫る自動車を見て、咄嗟に駆け出し代わりに轢かれたのだった。何故あんなことをしたのかは分からない。…もしかしたら、あの猫が事故のひと月前に病気で死んだ、唯一の家族だったシロの子猫時代に似ていたからかもしれない。

そして途切れた意識が戻った時、私は新しい生を迎えていた。
始めは驚き、戸惑ったが今はどうにかこうにかなっている、と思いたい。
何故か時代を遡っているのは本当に不思議だったが、きっとこうなる運命だったんだろう。今なら、そう思える。



新しい私の祖父は日本人だった。
若い頃イタリアにあるこの島にやってきて、祖母に一目惚れをしてそのまま結婚まで押しきったらしい。当時の情勢から考えると本当に珍しいことだった筈だが、大らかな島の人々は受け止めてくれたらしい。


そんな中、生まれたのが父だった。
父は仕事で日本に行った際一人の女性と交際し、なんと結婚まで漕ぎ着けた。そうして1年経った時私が生まれ、3年間幸せに暮らし、死んでしまった。

交通事故だった。
両親と私とでドライブに出かけ、生き残ったのは母に守られた私一人だった。
病院で意識を取り戻し、その事を知った時は愕然とした。
前世でも私の両親は(その時は高校入学直前だったが)交通事故で二人して亡くなった。そんな経緯から、もしかしたら私は疫病神なのかもしれない。そんな風に自分を責めたし、また独りぼっちだという思いに苛まれ絶望しかけたこともあった。

しかし今回はイタリアに住む祖父母に引き取られた。
祖父母は優しかったし、周りの人々も両親を喪った私を腫れもの扱いするでもなく接してくれた。

祖父母の住む島はのどかで歳の近い子は余りいなかったが、近くにある教会によく遊びに行っていた。
そこには10歳上の少年がいた。少年は子供の扱いに戸惑っていたようだが、なんだかんだと面倒見がよく私はその少年をお兄ちゃんと呼び酷く慕っていた。
その島の名前と少年の名前が私が愛して止まなかった漫画と一致しているということは不思議だったが、あまり気にしなかった。(だって、まさか自分が漫画の世界に生まれたなんて思えるはずもないじゃあないか!)


そうして長閑で幸せな5年が過ぎ、私が9歳になるその年運命の歯車は動き出した。
私は、私の生まれたこの世界と自分の覚悟と向き合うはめになったのだ。

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