神隠しの少女 | ナノ






「泊まっていくか?」
「ううん。大丈夫だよ。お兄ちゃんこそ明日早いんでしょ?」
「ああ。…無理はするなよ。何かあれば呼べ」
「ん。分かってるって」

心配そうな顔をするディアボロに手を振って教会に背を向ける。ほんの数十秒歩けば、誰も迎えてくれる人のいない我が家に着いた。重たく感じる体を引き摺りながら冷蔵庫を開く。材料を確認して出来そうな料理を思い浮かべるが…億劫になってしまって冷蔵庫を閉じた。
…一人で居ると、家が広く感じる。最低限の明かりしか灯さず、薄暗い室内は辛気臭いの一言に尽きた。せめてもの賑わいに、とテレビを付けたが今度はその騒がしさが耳についてうっとおしい。結局数分と持たずに電源を落とした。自分の呼吸以外音のしない空間に寒気が走る。いつまでこんな状況なのか。…いや、これからはこの状況が当たり前になる可能性が高いのだ。そう考えると今にも口から情けない叫びが零れ落ちそうで、反射的に口を塞ぐ。
手に当たる呼気が暖かくて、自分が今生きているのだと確認してしまう。いっそ呼吸も心臓も止まってしまえばいいのに。そうしたら、もうこんな思いをしなくて済む。悲しみも不安もこれから来る孤独も。全て全て、捨てて逃げられる。
そこまで考えて、ゆるゆると首を振った。何を馬鹿なことを。ディアボロが聴いたら怒るに違いない。DIOは愚かだと嘲るだろう。私が死ぬことを望んではいないと、そう思える人の顔を浮かべて小さく笑った。甘美な誘惑を振り切るように。

「でも…寂しいなあ」

それでも、口をついて出た呟きは今の自分を如実に表していた。
寂しい、悲しい、苦しい。支えてくれる人が居ても、それでも。静かな部屋を見渡してそっと目を閉じる。…それでも、血の繋がった家族を失うのは何度経験しても耐えることの出来ぬ辛さだった。今この瞬間、病院に居る祖父の心臓が止まってもおかしくない。そんな切迫した事態についていけない。もしも神様とやらが居るのなら、きっと私の事が大嫌いなんだろう。滲み出てきた涙を誰に隠すわけでもないが、そっと覆って。次から次へと溢れるそれに唇を噛みしめた。


「おい、おい」


この声は…
承太郎
DIO
ディアボロ

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