神隠しの少女 | ナノ






二人の間に沈黙が落ちる。

「…そろそろ暗くなってきた。明かりをつけよう」

気付けば確かに先程まで降り注いでいた光は力を失い、暗闇が迫っていた。…彼の、時間だ。

「じゃあそろそろ起こそうかな」
「そうだね、もう大丈夫だろう」

明かりを灯している内に見る見るうちに沈んでいった太陽の代わりに群青色に染まった空には月が輝いていた。綺麗な満月だ。先程とはまた違う色合いになったステンドグラスの方へと近づき、棺の側へ寄って。…思いっきり蹴る。

「…もう少し穏やかなやり方があるんじゃないか?」
「これぐらいして平気だよ」

反応がない棺を更に数度蹴ると、漸く蓋が鈍い音を立てて開いた。

「WRY…頭痛がするぞ…」
「そりゃ大変だ」
「大丈夫かDIO?」
「ああ、君は優しいな…」
「起こしてやった私だって優しいじゃない」
「どこがだ!もう少し丁寧に起こせ!」
「我儘だなあ」

毛を逆立てて怒るDIOを適当にいなせばプッチがまあまあ、と宥めにかかってくる。睨むDIOに舌を出してからプッチの後ろに回り込めば、射殺すような視線を送られたがすっぽりと隠れてしまえばそれも意味をなさなかった。

「全く。…それにしてもなぜ教会なのだ」
「ステンドグラスが見たくて」
「僕も見回りに来て驚いたよ」
「茉莉香の我儘のせいですまないなプッチ」
「気にしないでくれDIO」

二人が穏やかな空気を醸している所に悪いが、そろそろお腹が空いてきた。プッチの服をグイッと引っ張る。

「どうしたんだい茉莉香」
「お腹へった」
「お前…」

がくりと肩を落とすDIOにへらりと笑いかければ伸びてきた手でぐしゃりと頭を撫でられる。

「仕方ない、何か買いに行くか」
「君の格好は目立つから先に部屋に行くべきだと思う」
「なんだと…」
「ふふ、僕が買いに行ってくるから二人は先に行っていてくれ」

引き止める間もなく教会から出て行ったプッチを見送って二人プッチの部屋へと向かう。棺を置きっぱなしにしそうになって慌てたのはご愛嬌だ。


「お腹いっぱーい」

ごろりとプッチのベッドに転がれば、はしたないぞとDIOに窘められる。それを無視してごろごろとシーツの上を転がった。

「君たちは相変わらず仲がいいね」
「そうか?」
「プッチとDIOも仲良しじゃん」
「そうかな?」
「うん。大体プッチといる時のDIOって雰囲気違うよね」

だらけている…のは違うな。寛いでるっていうのが正しいだろうか。口調も違うし。
何となくイラっとしてジオラマを作るDIOの後姿を睨み付ける。

「そんなに睨むと穴が開くぞ」
「空くか阿呆」
「うーん…私からすると茉莉香といる時のDIOも雰囲気が違うけれどね」
「そう?」
「ああ。なんというか…二人とも気楽そうだ」
「…それって褒められてるのかなDIO」
「さあな。私に聞くな」

私たちに微笑みかけるプッチに居心地が悪くなってDIOの背中に飛びつく。手元が狂って捏ねていた粘土が変な形になった。

「WRYYYY!」
「あーあ」
「あーあじゃないよ、君がやったんだろう」
「わざとじゃないですしおすし」
「わざとだったら許すものか!君からも言ってくれプッチ!」
「ほら、謝りなさい茉莉香」
「ごめーんね」
「謝ったし許してあげなよ」
「謝罪の気持ちがこれっぽっちも伝わってこないぞ!?私は結構真面目に作ってたんだぜ?知ってるだろプッチ!」
「まあまあ。茉莉香もちゃんと謝りなさい」
「…ごめんね。だって見てるだけじゃ詰まんなかったから!」

大きなため息を吐いたDIOが手にしていた粘度を放る。

「分かった。お前も出来ることをすればいいんだろう」
「じゃあトランプでもやろうか」
「賛成!」

ごそごそと棚を漁るプッチ。それを見るDIOの腕をつつく。

「…あー、ごめんね」
「…もうやるなよ」
「はーい」

実はプッチとの空気にちょっとやきもちを焼いた…かもしれない、なんてことは今後ネタにされることは必至だから絶対に口にしない様にしよう。そんなことを思いながらDIOの背中にぐりぐりと頭を押し付けた。


ちょっとした独占欲
一番の仲良しは私だ!なんて子供っぽいね

→あとがき

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