神隠しの少女 | ナノ






「…あの世界の影響はこちらに持ち越すらしいな」

先程よりは綺麗になったがまだ所々血の滲む手を見ながら一人納得しているようだ。しかし赤に彩られた手はすぐ治るとはいえ痛々しい。それが私のスタンドによるものだというのだから尚更だ。
だけれど、そんな私を気にするでもなくDIOは時計を眺めたりしながら何かを考えている。声をかけるのも憚られて、靴を脱いでベッドの上に三角座りをしてみる。
途中テレンスさんが新しい紅茶を持って来てくれた。なんだあの気配り上手。嫁に欲しいな、おい。

「茉莉香」
「はい?」
「これを何も考えずに入れてみろ」
「…?」

DIOの意図は分からないが、まだ湯気の立つ温かい紅茶を受け取る。何も考えないと言われてもな…。考えない、考えない…。出来るか畜生!とりあえずなんの設定もするなと言うことだと受け取って、最初の無の状態を思い浮かべて触れてみる。無事消えると、DIOは何も言わずにこちらを見ていた。

10分程度経つと、出せと言われたので机の上に出してみる。

「…なんで?」

出した紅茶はもう冷め始めているはずなのに、入れた時と同じく湯気が出ている。一体どういうことなのか。

「茉莉香」
「はい?」

茫然と見つめているとDIOに名を呼ばれる。

「お前、そのスタンドに名はつけたのか?」
「まだだけど」

いきなり何だというのだろうか。

「ならばこのDIOが名づけてやろう」
「は?」
「なんだ、不満か?」
「いや、別に不満とかはないけど…」

なにか候補を考えたりとかしていたわけじゃないし。

「スピリッツ・アウェイ。それがお前のスタンドの名前だ」
「…スピリッツ・アウェイ?」

神隠し、だったか確か。

「ああ。スピリッツ・アウェイという現象は世界各地で観測されている。ある日突然人が消え、そしてまた突然帰ってくる。…消えた時と同じ姿でな」

ふむ、確かに私のスタンドと酷似しているかもしれない。スタンドが見えない人からしてみればいきなり消えて出てくるのだ。しかも…紅茶の様子からするに入った(神隠しならば隠れた、だろうか)時から変わらぬ姿で。

「あれ、でも…DIOの手…」

そう、DIOの手は影響を受けたままだった筈だ。

「これはオレの推測だが、時間という概念の影響は受けないがその中で起こった出来事の影響は持ち越されるということだろう」

…その言葉に後頭部がジワリと痛んだ。そう言えば初めて入った時に出来た瘤は出てもそのままだった。確かに起きた現象を組み合わせればそういう結論に達する。

「中々使い勝手のいいスタンドと言えるだろうな」
「…なんか悪い顔してるよ」

ニヤリ、と笑ったDIOは悪だくみしてますって顔だ。

「…気にするな」
「いやいやいや」

サラッと流そうとしてるよね。…まあ、肉の芽植え付けようとしてこないだけマシか。

「まだそれだけかは分からぬからな。自分でも色々試してみろ」
「はーい」

元気よく返事したのはいいが、妙に眠い。中で集中したからだろうか。私ってこんなに集中力なかったかな…?

「今日は帰るね…」
「…まだ4時だぞ」
「なに、寂しいの?」
「また首を絞められたいか小娘」
「まっぴらごめんです。…なんか妙に眠くて」
「ここで寝ていけばよかろう」
「ここのベッド気持ち良すぎて寝過しちゃいそうから駄目」
「…そうか」
「うん。また遊びに来るね。あ、テレンスさんに次はクッキーが良いって言っといて」
「図々しいな」

DIOの皮肉をスルーして、スタンド…スピリッツ・アウェイを呼ぶ。小さく名前を呼んでみると微笑んだ。どうやら彼女も気に入ったらしい。DIOも中々センスが有るじゃないか。

「じゃあ、土曜日にでも」

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