神隠しの少女 | ナノ






デリーに辿り着きホテルを取る。ベナレスの事件でジョセフおじいちゃんが指名手配されているのでは、と思ったがまだ平気なようだ。財団の方に連絡は付けたようだしそこまで心配しなくてもいい…のだろうか。
適当に作ったくじで部屋割りを決める。結果承太郎・ポルナレフ、私と典明君。誰もが羨ましがる一人部屋はジョセフおじいちゃんの手に渡った。

「明日はインドを抜ける、各自しっかり休むこと」
「はーい」

ジョセフおじいちゃんの言葉に返事をして部屋に向かう。典明君と交代でシャワーを浴びて戻ってくると彼はベッドに腰掛けながらも、酷く眠そうにしていた。

「髪の毛乾かさないと風邪ひくよ?」
「うん…」

なんとか返事はするものの半分以上意識が飛びかけているようだ。苦笑しつつドライヤーで乾かしてあげると、こくりこくりと舟をこぎ始める。乾かし終わった頃には既に安らかな寝息すら聞こえていた。
意識のない育ちざかりの男子高校生を起こさない様に横にする、というのは中々の重労働だったがスタンドと協力してなんとかやり遂げる。典明君の頬を一撫でしながら、疲れているんだな、と苦笑してしまう。こんな旅だし、典明君の今までを考えれば家族以外とこんな長い間一緒に過ごすのも初めてだろう。体力的な疲れと気疲れとで思っている以上に辛いのかもしれない。
明日はいつもより優しく接しよう、なんて一人頷きながらこれからどうしようかと考える。
日中ぐっすりと眠ってしまったためか、目は冴えきっていて眠気が来る予兆もない。本か何かでも読もうかと思ったが、寝ている典明君の事を考えると明かりをつけておくのも忍びない。

結局、一人ホテルの中を散策することにした。と言っても、そんな大きなホテルでもないし、他の客室に出入りできるわけでもないので直ぐに終わってしまう。いっそ日本に顔でも出しに行こうか、なんて考えながら廊下を歩いていると階段が目に留まった。
ここは最上階で、そこにある昇り階段が示す先は屋上ただ一つである。勿論安全の為に出入りする扉には鍵がかかっている可能性もあった。が、時間を持て余しているこの状況と、むくむくと湧き上がってくる好奇心を抑えることが出来なかった。
鍵がかかっていれば戻ればいい、と考えながら足を進める。…後から考えれば、これが間違いだったのだが。

階段を上り切った先の扉には鍵はかかっておらず、簡単に外に出ることができた。頬を撫でる砂を含んだ風に目を細めつつ足を踏み出す。

「ほお、これはこれは」

思わず感嘆の声が出た。日本よりも明かりが少ない空には多くの星が煌めき、大きな満月が煌々と照っている。そのおかげで街並みもある程度は見ることができた。
暗い影を湛える建物と、ぽつりぽつりと見える明かり。まるで何かの物語に出てきそうな異国情緒溢れる光景である。暗い夜道を走る少年と、それを追う影を想像してくすくすと笑いがこぼれた。
最近は自分でも忘れがちだが元々私はこういった想像を駆り立てられるような光景が好きだった。DIOと出会ったのもそのおかげである。
屋上の縁に腰を掛けて街を見下ろしながら想像を膨らませていく。様々な想像と現実の光景がリンクしては消えて行った。

「おい」

いよいよクライマックス、と言った所でいきなり声を掛けられた。思わずびくりとして――そのままバランスを崩す。

「茉莉香!」

私の名前を呼んだ人、ポルナレフの方を見ると、必死な顔をして手を伸ばしていたがそれは届かず。

「茉莉香!!!」
「はい」

むしろ彼が落っこちてしまうんじゃないかって心配になる程に身を乗り出した彼の襟を掴みながら返事をする。凄い勢いで振り向いたポルナレフは、金魚の様に口を動かしてから大きなため息を吐いた。

「…そうだよな。お前のスタンドなら心配いらねえよな」
「ええ。むしろポルナレフさんが落ちるんじゃないかって心配になりましたよ」

ポルナレフが体勢を正したのを確認してから手を離してまた縁に腰掛ける。ポルナレフはそれを見て何か言いたげにしながらも、同じように腰を下ろした。

「寝ないのか?」
「昼間寝すぎたみたいで全然眠くないんですよね」
「ああ、お前よく寝てたもんな」

けらけらと笑うポルナレフに頬を膨らますふりをしつつ、彼こそなぜ起きているのだろうと不思議に思う。彼は私とは逆に疲れ切っているはずだ。仇敵であるJ・ガイルを手に掛け、その後は女帝の事件に巻き込まれたのだから。
そこまで考えて、気づく。ああ、きっとこの人は。

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