神隠しの少女 | ナノ






ベナレスに向かうバスで典明君に肩を借りつつ後ろの会話に耳を傾ける。流石愛の国出身、女性には強いというか調子が出るというか。少々呆れながらうとうとと眠りについた。
気付くとそこは見知らぬ一室だった。扉を開けると承太郎と典明君がコーヒーを飲んでいる。

「ああ、目が覚めたかい?」
「うん」
「起こしても起きないから心配したよ」
「そっか、ごめん」
「いや。…承太郎も心配してたよ。ここまで運んだのも承太郎だしね」
「余計なこと言うんじゃないぜ」

学帽を深く被る承太郎に典明君と目を合わせて笑う。全く可愛いお兄ちゃんだ。

「ジョセフおじいちゃんとポルナレフさんは?」
「ジョースターさんは病院だよ。腕が腫れてしまってね」
「ポルナレフの野郎はネーナとか言う女と出かけた。元気な奴だぜ」
「全く。アヴドゥルさんのことで気落ちはしているようだが…空元気とはいえあそこまで出来たら大したものだ」
「アヴドゥルさん…」

治療は財団関係の病院で受けているのだろうが…。数日間とはいえ一緒に旅をしてきたのだ。死んではいないと思っていてもやはり心配にはなる。
落ち込んだように見えたのか承太郎が私の名前を呼んだ。

「アヴドゥルは生きてるぜ」
「承太郎!言っていいのかい?」
「ああ、うん。それはなんとなく分かってたけど」

慌てる典明君を尻目に軽く頷けば二人が目を丸くした。…そ、そんなに見つめられると穴が開く…!

「いや、だって承太郎の反応見ればなんとなく、ねえ?」
「やっぱり家族なんだね。僕は上手く隠し通してると思ってたんだけれど」
「…やれやれだぜ」

どこか拗ねた様にそっぽを向く承太郎に内心キュンキュンしつつ空いていたソファーに座る。
ジョセフおじいちゃんが警察に追い回されるまでどれくらいだろうか。女帝はホテルの名前も言っていたし、きっとここにも警察は来るだろう。どう乗り切るのか想像してすぐに力技だろうな、と結論に辿り着いた。

そして穏やかな時間もあまり長くは続かず。フロントから客が来た、という連絡が来た。…十中八九警察だろう。刺客かと警戒する承太郎たちを尻目に皆の荷物を纏めてスタンドに収納しておく。


「警察ですが、ジョセフ・ジョースターはここに泊まっていますね?」

思わぬ人たちの登場に驚く二人にこっそり持ってきたシーツをかぶせる。目を丸くした警官に微笑みかける。

「It's a magic!」

次の瞬間には用意していた車に三人仲良く座っていた。

「…どういうことだ?」
「いや、面倒くさいことになりそうだったから離脱した…って痛い!痛いよ!」

私の頭を鷲掴みにする承太郎の手を叩く。だってあのままやってたらもっとややっこしいことになってたじゃないか!
一つ息をついて手を離した承太郎を不満げな目で見つめるが反応はなかった。…寂しい。
そんな私たちに典明君は苦笑しつつキーを回す。

「とりあえず二人を探さないとね。このままだとここにもすぐ警官が来るだろうし」
「…お前運転できるのか?」
「…さあ、どうだろうね?」

言葉とは裏腹に典明君の笑顔は自身に満ち溢れていた。…F-MEGAで鍛えた腕、か。不安に襲われつつ私はしっかりと座席にしがみついた。


暫く走り回ってなんとか二人を見つけ出した。凄い強運である。想像通り中々激しかった典明君の運転から解放され私もようやく一息つく。
このままベナレスに居るのは不味いのでデリーまで急ぐこととなった。ガタガタと揺れる車内から空を見上げつつ、一番の敵は車酔いかもしれない、とため息をついた。

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