微妙な顔で向き合うこと数秒。舌打ちしたDIOが首筋に顔を埋める。血を吸われるのかと身を固くしたが、感じたのはチクリとした痛みだった。
離れて目を眇めながらこちらを見るDIOの瞳を見返して、ようやく何をされたか気づく。急激に頬に熱がこもった。
「ちょ、き、君何やってくれてるの!?」
「マーキングだ」
「マーキングって犬か!」
至近距離にある顔を押し返しながら肩で息をする。そんな私をDIOは笑った。
「この香水も、その跡も。お前が私の物だという印だ」
「…人の事物扱いすんなし」
ああ、もう何なんだ。人が諦めようとしてるのに。
「期待なんかさせないでよ」
「何故だ?」
DIOを睨み付けて一瞬固まる。いつの間にか彼は真剣な顔をしていた。
「何故って…」
「期待したいならすればいい。私はそれを叶えてやるぞ?」
「…流石に冗談が過ぎると思うよ?私が君に一夜のお相手を頼むとでも?」
ぎしりと噛みしめた奥歯が嫌な音を立てた。ああくそ、泣きそうだ。DIOが何を考えているのかなんて分からない。ただ彼の周りに居る女たちと同列に考えられるのだけは嫌だった。
そんな私にDIOは一度大きなため息をついた。
「誰がそんなことを言った」
「だって君が!」
「お前の期待とは、願いとはそんなことなのか?」
言葉に詰まれば、分厚い胸板に引き寄せられる。ヒヤリとした肌と、私の為に選んだという香水の香りに脳みそが掻き回された。…ああもうどうにでもなってしまえ。
やけくそになってきた私の背中をDIOが押す。
「言ってみろ。叶えてやる」
「…君が、私のものになればいい」
「ほう?」
「私が君の物になるっていうなら、君は私のものだ」
「…いいだろう。この先例えお前が死んだとしても、私はお前のものだ茉莉香」
私の頬を撫でながらさらりと言ってのけたDIOを見上げる。細められた瞳の中には嘘は見当たらない。
「…私が死んだ後のことなんてどうでもいいよ」
「なに?」
だって、それじゃあ君が寂しいじゃないか。だから。
「私が生きてる間だけでいい。でも、私がおばあちゃんになって、よぼよぼになったからってよそ見なんてしたら」
殺してやる。ポツリとつぶやいた言葉にDIOの手が止まった。そのままくつくつと笑いだす。
「何笑ってんの」
「…いや、お前らしいと思ってな」
何が言いたいのか分からず目を瞬かせていると笑いを止めたDIOが柔らかく微笑む。滅多にない表情に固まっている私の手を取って、彼はそっと口付けた。
「お前の願い、叶えてやろう。…私はお前が息絶えるその時までお前のものだ」
「…私は、その時まで君のものだよ」
そこまで言って恥ずかしくなって俯けばゆるゆると頭を撫でられる。なんだか急に甘えたくなってしまってもっと、とばかりに擦り付ければ喉で笑われた。
「ねえDIO」
「なんだ?」
「…愛してるよ」
止まった手を不思議に思って顔を上げれば、DIOが目を見開いたまま固まっていた。…私ばかり言われっぱなしで悔しいと放った一言は思ったより効果があったようだ。
最期の一秒まで君にいつの間にか二人とも同じ香りになっていた
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