神隠しの少女 | ナノ






自室に着くと同時に腹に鈍痛が走る。嫌な予感にトイレへと向かった。
想像通り月の物が始まっていて気分が更に重くなる。一通り済ませて私はソファーに身を委ねた。

…ああ、もしかしてこれのせいで情緒不安定なんだろうか。先程のDIOとの一件を思い出してそんな可能性に行き当たる。
普段、彼が他の女の香りを纏っていることはしばしばあった。しかし、あんな嫌悪感を催したのは今日が初めてだ。
重い体と心にげんなりとしていると扉がノックされた。嫌々扉まで行って来訪者を確認する。

「…ホル・ホースさん?」

思わぬ人に首を傾げつつ扉を開く。彼は私の顔を見て挨拶もそこそこに具合が悪いのかと訪ねてきた。…そんなにひどい顔をしているだろうか。

「どうしたんですか急に」
「急にって…事前に連絡付けといただろうが」

そう言われて思い返すと、そう言えば報告書だか何だかを渡しに来るとメールが入っていたような気がする。最近忙しくてすっかり忘れていた。
誤魔化すようにコーヒーを淹れてくると言えば、大きなため息をつかれて自分が淹れてくると席を立たれる。…なんかすいません。

「あんま忙しすぎんのもどうかと思うぜ」
「返す言葉もございません」

予定としては久々の休日であった今日はあのままDIOの所で過ごそうと思っていたのだ。そうなれば彼は丸一日無駄にすることになる。先程の件は彼にとって運が良かったと言えるかもしれない。

「で、これなんだが」
「はい」

報告書を挟んで色々と話を進める。ふむ、特に問題は無いようだ。パッショーネの方の書類もなんとか用意出来た。…書類の山を崩す私にホル・ホースさんは苦笑いしっぱなしだったが。
一通り仕事の話が終わって部屋の空気も緩む。温かいコーヒーに腹痛も和らいだ気がした。

「にしても、うちの大将にも見習ってほしいもんだな」
「…そうですか」
「ああ。どうも最近遊び歩いてるみたいでなあ」

その言葉に一瞬体が強張る。しかしホル・ホースさんはそんな私に気付かないのか愚痴混じりの話を続けた。

「結構な頻度で香水の匂いさせてよお、しかも毎回違うんだぜ?」

その言葉に、ずきりと下腹部が痛んだ。
こっちは仕事で手一杯だってーのに、と泣き真似をするホル・ホースさんになんとか笑顔を作る。しかしそこは流石フェミニスト、というべきか。私の顔を見て微妙な表情を浮かべた。

「…あー、なんか不味いこと言っちまったかオレ?」
「いえ。特に何も」

思っていた以上に素っ気ない声が出てしまって失敗したな、と思う。

「私とDIOは友人であって、そういうのじゃありませんから」

取り繕うようにそう言ってから、墓穴を掘ったと気付く。わざわざこんな風に言っては気にしてますと言っているようなものだ。その証拠にホル・ホースさんは豆鉄砲を食らったハトの様になっている。

「なあ、もしかしてお前…」
「言わないでください」

言わないでください、ともう一度告げれば彼は困ったように笑って。コーヒーを飲みほして腰を上げた。

「自分の気持ちには素直になったほうがいいと思うぜ」
「…覚えておきます」

私の言葉に彼はもう一度困ったように笑って去って行った。

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