神隠しの少女 | ナノ






急に緊迫感の増した周りを少女が狼狽えた様に見回す。しかし、今は誰もそれを気遣ってやる余裕は無いようだ。

「…あの時確かに私はこの子のいる船に居ました」
「一体何をしていたんだい」
「…あー、恥ずかしながら承太郎が元気か気になってしまって」

アヴドゥルさんに照れた様に笑って見せる。まあ、嘘ではないしな。

「じゃあなんでわざわざ船倉に出て、隠れてたんだよ」
「だってバレたら承太郎怒りそうじゃないですか」
「確かに、怒りそうだね」
「でしょ?だから隠れてたんだよ」
「じゃあ、船長が消えた時、お前はどこに居たんだ」
「…お母さんのことが心配だったし君の顔少し見てすぐに帰ったよ。だから、そのことに付いては何も知らない」

承太郎の目をまっすぐに見つめる。同じように見返してくる綺麗な瞳に嘘をついていることが心苦しくなるが、ここでバラすわけにはいかない。

「…信じて、いいんだな」
「勿論。信じて欲しい」

そう、信じてくれて構わない。真実がどうであろうとも、信じたことが彼の事実になるのならば。

「そうか」

私の頭を撫でる承太郎にニコリと笑う。胸が痛んだ気がするのは、きっと気のせいだ。



「では、わしらは財団の者に彼らを引き渡してくる」
「行ってきまーす」

承太郎と典明君は(ラバーソールが擬態していないという点を除き)原作通りチケットを買いに行き、私とジョセフおじいちゃんはラバーソールとデーボさんを財団の人に渡すことになっていた。
港の方まで行くと何人かの人が立っていた。そこにジョセフおじいちゃんが近づいていく。私たち三人は、後方待機だ。

「ラバーソール」
「ん?」

口を大きく動かさない様に気を付けながら小声で呼びかければ、彼もそれに気付いているのかこちらを見ずに返事をする。

「…あの中に、内通者はいる?」
「…わかんねーな。顔は見たことねえ」
「そう。デーボさんは?」
「オレも知らねえな。…財団の中に居るのか」
「一行の中に居なけりゃね」

大体、おかしな話なのだ。ジョースター一行は原作でも今も行く先々で奇襲に会い予定のルートは変わっている。それを何故刺客は的確に追えたのか。DIOの透視の力もそこまで精密ではないはずなのに。
考えられることは一つ。一行の動きを捉えている人間が情報を流している、ということだ。各地に居る協力者という可能性も考えたがイレギュラーな行動が多い彼らを逐一見つけだすことは難しいし、第一それでは取り逃がしてしまう可能性もある。それに対し、財団の中に内通者がいれば話は簡単だ。なにせこちらから連絡を取っているのだから。

「見つけて消しとく?」
「いや、いいよ」

こっちの動きが筒向けと言うのも問題だが、刺客を取りこぼして後ろから刺されるよりは真っ向から向かってきてくれた方がやりやすい。ただ、スタンド使いにしろそうじゃないにしろDIOに忠誠を誓っている人間がお母さんやこの人たちの側に居るということが問題な訳で。
それを見越してお母さんには護衛として彼らを付けたのだが。

「…二人とも、あんまり気緩めないでね」
「はいはい」
「あいよ」

こちらを向いて手招きをするジョセフおじいちゃんの方に二人を押し出す。ひらひらと手を振って、車に乗り込む二人を見送った。
…明日からは、忙しくなりそうだなあ。

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