神隠しの少女 | ナノ






数分が経って、また扉がノックされる。それを開ければ、やはりテレンスさんが立っていた。

「掃除が終わりましたが…」
「そうか。…茉莉香、もう一度言うがテレンスに迷惑はかけるなよ」

DIOの言葉に元気よく返事をすると、テレンスさんに続いて廊下に出る。
薄暗いが、点々と灯されているランプのおかげで周りは把握できる。ホル・ホースが来た時には真っ暗だったから態々灯しておいてくれたんだろう。テレンスさんかヴァニラかは分からないが気配りが嬉しい。

「…ではキッチンに行きましょうか」

私が見回すのを待っていてくれたテレンスさんが歩き始め、慌ててそれについて行く。それにしても広い館だ。
きょろきょろとする私にここが図書館だ、とか説明してくれるテレンスさんは本当にい人だと思う。…趣味はアレだけど。

「そしてここがキッチンです」

開かれた扉の先には立派なキッチンがあった。ここは暗いと動きづらいせいか電気が付いていた。

「私は紅茶を淹れるので茉莉香様はケーキを切ってください」

ケーキとお皿を取り出して私の前に置くと、テレンスさんはお湯を沸かし始めた。

「あの」
「どうかなさいましたか」
「出来れば敬語やめて下さいませんか?あと様付けも…」

目上の人間からそんな風に畏まられると困ってしまう。DIOはなし崩しで砕けた言動になってしまったが、私にだって常識と言うものは有るのだ。

「DIO様のお客様にそのような失礼な物言いは出来かねます」

丁寧に、しかしきっぱりと言いきられてしまう。ですよねーと言いたい所を何とか堪える。うーむ、でも出来たらテレンスさんとも仲良くなりたい。さらに言えばゲームの手ほどきとか受けたい。F-MEGAの超絶技巧は生で見てみたいものの上位に位置しているのだ。どうしたらいいのか悩んでいると、鼻腔を紅茶のいい香りが擽る。

「いい香りですね」
「仕入れたばかりのアールグレーです」

…また会話が途切れてしまった。沈黙が苦になるタイプではないが、流石に気まずい。

「あの、すいませんでした」
「何がですか」
「手伝いたい、なんて言って…逆にご迷惑でしたよね。わざわざ掃除までして頂いて」
「いえ。お気になさらず」
「はあ…」

返事とため息の中間の様な声を上げてしまう。空周りと言うか逆効果と言うか。どんどん悪いイメージを与えてないか。というか、私ってどう思われているのか。敬愛する主人の元にいきなり現れた変な小娘。多分そんなところだろう。
お皿に乗せたケーキを見ながら美味しそうだな、なんて現実逃避を始めてみる。これどこで買ったんだろうか。DIOが買いに行くはずはないし。テレンスさんかヴァニラ辺りだろうか?どちらもケーキ屋さんは合わないだろうな、なんて笑えて来てしまう。

「このケーキ美味しそうですね。どこで買ったんですか?」
「私が作りました」
「え?」

思わず振り返れば、紅茶を淹れ終わったテレンスさんが渋い顔をした。

「手作り、なんですか?」
「御嫌でしたら買ってまいりますが」
「いいえ、そうじゃなくって!…こんな美味しそうなケーキ作れるなんてすごいですね!」

本心からそう思う。私もお菓子作りはたまにしているが、こんな立派なものは作れそうにない。なんせさっきまでお店のモノだと思っていたほどだ。

「これくらいなら簡単ですよ」

トレイにケーキと紅茶を乗せながらテレンスさんの表情が少し緩む。おお、良い傾向じゃないか!?

「器用なんですね」
「それほどでは有りませんが…」
「そんなことありませんよ!私なんて不器用で…お裁縫も苦手なんです」

少しズルイかとも思ったが、テレンスさんの趣味に掠める話題を振ってみる。お裁縫が苦手なのは本当だしね!

「裁縫は慣れるのが一番ですよ」

思った通り食いついて来てくれた。

「慣れ…ですか」
「ええ、誰しも始めは上手くできないものです」
「成程…。テレンスさんも始めは上手く出来なかったんですか?」
「Exactly」

したり顔で頷くテレンスさんを尻目に、名言を聞いた私のテンションは鰻登りだ。…それにしても原作読んだ時から思ってたけど、この人案外乗せられやすいというか単純だよね。スタンド的に賭けには向いてたけど心理戦ではお兄さんのが上手な気がする。

「今はどんなものを作ってるんですか?」

私の言葉に少し詰まったが、渋々そうに答えてくれる。

「今は…人形の洋服などを作っています」
「お人形の洋服って…そんな細かいものも作れるんですか!」

私の反応に気を良くしたのか、テレンスさんはどんな洋服をどうやって作るのか細かく説明してくれた。所々チンプンカンプンだが、楽しそうだったので笑顔で相槌を打っておいた。
それから何故かお互いの趣味の話になり、ゲームが好きだという話から意気投合し更に話は盛り上がり。今度来たら一緒にプレイしよう、なんて話が一段落した時には紅茶は冷めきっており、もう一度淹れなおすはめになった。



「…お前たちは紅茶一つにどれだけ時間が必要なんだ」
「申し訳ございません…」
「寝てたんだからいいじゃない」
「そういう問題ではない」

DIOに小言を言われつつ食べたケーキは見た目と同じく売り物の様に美味しかった。

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