神隠しの少女 | ナノ






「今日は早いな」
「あんな話聞かされちゃゆっくり寝てられねえよ」
「あんな話?」

…一体なんだと考えて一つ候補が見つかる。そしてそれはポルナレフの言葉で正解だと分かった。

「妹の仇が、J・ガイルの野郎がこっち向かってんだ。さっさと引導付けてやらねえとな」
「ああ…」

やっぱりか、と頷く私にラバーソールとデーボさんが身を固くする。…別に名前を聞いただけで暴れたりはしないのに。不機嫌にはなるけど。
あの生理的嫌悪感を催す男の事を思い出して鼻の頭に皺を寄せる。

「不細工になってんぞ」
「一応自覚はある」

デーボさんの忠告に眉が寄る。ますます不細工な顔になっているだろうな、と他人事のように思った。

「ねえ茉莉香」
「ん?なに?」
「J・ガイルと何かあったのかい」

ストレートな典明君の言葉に皆固まる。…典明君って案外サラッと爆弾発言を落とすよね。

「別に彼とは何もないよ」
「彼とは?」

…言葉の選択を誤ったなあ、としみじみと後悔してしまった。勘のいい子は嫌いだよ、なんてふざけた言葉も浮かんだが。

「…この世で一番嫌いな奴を、思い出させるんだ」

まあ、そいつはもう生きてはいないのだけれど。無様な死に顔を思い出して思わず口が歪む。今大層悪い顔になっているだろうなあ。
典明君はまだ何か聞きたい様子だったがそれも足音荒く駆け下りてきた少女に打ち消される。

「本当だ!生きてる」
「うん、まあ生きてます」

べたべたと無遠慮に触れてくる少女に苦笑いする。やっと生きている人間として認識して貰えたらしい。

「でも承太郎の妹って聞いたけど似てないわね」
「血の繋がりは薄いもので」
「そうなの?…ふーん」

私の言葉を聞いてなんだか視線に険が混じった気がする。ああ、承太郎の事好きなんだっけこの子。
別にライバルなんて大層なものにはなりませんよ、という思いを込めて笑いかければ何とも言えない顔をされた。あれ、悲しいぞ。

「生きてるって、どういうことだよ」
「船で幽霊見たって言っただろ!それがこいつだったんだよ!」

ポルナレフの問いかけに指を差される。…人を指さしてはいけないって教わらなかったのだろうか。いや、それって日本だけなのか?
イタリアでは教わったっけ、なんて遠い記憶を掘り返すが元々祖父母の前でそんなことをしたことがないので、注意された覚えはなかった。

「お前、船に居たのか?」

ポルナレフの言葉に視線が集まる。その中には連れ立って降りてきた承太郎とアヴドゥルさんの姿も見えた。

「お前のスタンド自分以外の奴も移動させられんだよな?…あの時、船長が消えた時お前何してたんだ」

…やっぱり勘のいい奴は嫌いだよ。

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