神隠しの少女 | ナノ






その問いに目を数度瞬かせてからラバーソールはニッと笑った。


「切り捨てるも何も。例え側近だろうと殺しちゃうんじゃね?茉莉香の為なら」

「殺しはしなくとも後悔だけはさせただろうなあ」

「…あいつと、DIOはどういう関係なんだ」


気付けば承太郎の口から言葉が零れ落ちる。ラバーソールはそんな承太郎を見つめ返した。


「…茉莉香はなんて言ったんだよ?」

「…友人だと」

「ならそれで間違ってねーだろ」


自分の有力な手駒を失ってまで選び取るほどの親しさだったのか、本当にただの友人だったのか。聞きたいことが頭の中をグルグルと回る。そしてその疑問は避けていた考えへと辿り着く。
…自分は、茉莉香を信じていいのか。彼女は、自分たちとDIOを天秤に掛けた時、いや、俺とDIOを天秤に掛けた時どちらを選ぶのか。
女々しい考えだと思う。旅立つ前に見た茉莉香の涙を疑うようなものだ。そう、分かっては居る。だが、それは本当だったのか。そんな不安が湧き上がった。
実際今この二人と自分とを天秤に掛けて茉莉香が自分を選ぶ、といった確信すら承太郎は持てていなかった。それは、この二人に対する態度が自分よりも親しげで気の置けない仲のように見えてしまったからか。
ぎしりと、奥歯がきしむ音がした。


「…思ってたよりも青くせえな」


デーボの言葉に弾かれた様に伏せていた顔を上げる。初めて正面から見たその眼は冷え切っていた。


「んだと…」

「あ?」

「はいはい。承太郎先輩もおっさんもストーップ」


茶化すような声音でラバーソールが片手を上げる。お互い睨み合うがそれも数秒だった。


「承太郎。お前が何考えてっかは分かんねーけどさ、茉莉香があんたを裏切るこたないと思うぜ?」

「……んなこた、知ってる」


そうだ。分かっているはずなのに。それでも、矛盾した考えが頭から離れない。
考え込む承太郎にラバーソールは面倒くさげにため息を一つついた。


「ガキの頃さ、宝物ってなかったか?」

「ああ?」

「壊すのが怖くて折角持ってんのに箱にしまって大事に取っといた、みたいなやつ」


…そう言ったものなら承太郎にも思い当たるものはある。父が仕事で言った国で買ってきた精巧なボトルシップ。祖父が買い与えた万華鏡。どれもすぐに壊れてしまいそうで、結局手に取ったことは数回しかなかった。あれらは今どこにあるのだろうか。


「普通に考えりゃちょっとくらい乱暴にしても問題ないって分かるけど、馬鹿見てえに丁重に扱うもんてあんだろ?…茉莉香からしてみりゃあんたがそれだよ」

「俺が?」

「そ。てかあんた含めた家族、って奴かね。…ま、茉莉香の過去かりゃすりゃ仕方ねえことなんだろうけど」


その言葉にあの時の慟哭が承太郎の脳裏に蘇る。家族が欲しかったと、普段気丈に振る舞う茉莉香が泣き叫んだあの言葉が。


「オレらはさ、まあ承太郎先輩より付き合い自体は長えし?あんたらよりは大事に思われてねえからああいう扱いなだけだ」


だからまあ、あんま気にすんなよ、と笑ってラバーソールは席を立った。もう一度屋台に向かう後姿をなんとはなしに眺める。


「…あいつまともなことも言えんだな」


デーボが感心したように呟いたのに他の面子も頷いた。…正直ただの馬鹿かと皆が思っていたようだ。
まあその感心も茉莉香への土産、という名目ではしゃぎまわって買い物する姿で打ち消されたのだが。

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