神隠しの少女 | ナノ






学校から帰り、動きやすい服装へと着替える。昨日宣言した通りDIOの館に訪れるだけならわざわざ着替えなくてもいいのだが…。日中だし、DIOは起きていないかもしれない。そうしたら、カイロを歩き回ろう、という算段だ。

「こんなもんかな」

ズボンに長袖のシャツ。少々暑いが向こうの日差しはこちらよりも強い。これくらいしていても焼けてしまうかもしれない。あまり焼けたくはないが、好奇心は抑えられないものだ。

「さて、しゅっぱーつ!」

もう慣れた浮遊感と共にDIOの館へと移動した。



「…本当に来たのか」
「来るって宣言したじゃん」

ベッドに寝そべり、けだるげな視線をこちらに投げつけながらDIOが呟く。…色気がヤバい、ヤバいよ。会うたびに色気にやられてる気がするけど仕方がない。だって存在が美と言ってもいいDIO様だものね!そりゃあ身をささげる女も絶えないわ。でもその魅惑のボディはジョナサンのモノだけどな!ジョナサンの時は爽やかさを感じるのに何でDIOだと色気ムンムンになるのかね。

「全く…まだ眠いんだがな…」
「昼夜逆転生活にもほどが有るでしょうよお兄さん」

ブチブチと文句を言いながら起きてくるDIOに思わず突っ込む。
…ふっきれたとはいえ、結構雑な喋り方になってしまったなあ、と思ったけど直すのも面倒くさい。DIOも気にしてないっぽいし…まあ、いいよね?この開き直る性格とも長い付き合いだ、今更変える気なんて毛頭ないね!なんて脳内で自問自答しておく。
DIOは私の質問にどう答えるか悩んでいるのか、顎に手を当てて無言のままだ。…まあ、いきなり吸血鬼です、なんて言ったら精神科に直行させられても仕方ないしね。事実だとしても突飛すぎるし。
なんと答えるのか想像しながらDIOの答えを待つ。…日光に弱い病気とかその辺かな?

「茉莉香」
「はい?」
「…私は吸血鬼だ」

…うん、直球だね!ストレートに豪速球投げてきたね!思いもしないまっすぐっぷりに思わず口がポカーンと開いちゃったよ!DIOはそんな私の反応を信じていないと受け取ったのか、花瓶から一輪の花を取り出した。

「見ていろ」

そう言った次の瞬間から見る見るうちに花が萎びていく。…綺麗だったのに勿体ない。

「あー…枯れちゃった」

私の言葉にDIOが訝しげな顔をする。うん、驚くと思ってたんだよね、きっと。

「本当に吸血鬼なんだねぇ」
「もう少し驚くかと思ったんだがな」
「いや、だってさ…スタンドとか訳の分からないものが見えて、使えるからこうしてDIOの所に遊びに来てるんだよ?そんなのが居るんだから、吸血鬼も居たっておかしくはないでしょ」
「…お前は本当に変な奴だな」
「だから変な奴ってやめてよ…」

DIOを睨めば一笑に付された。…なんかイラっとするね!脇腹を渾身の勢いで突いたら、頭を叩かれた。脳みそグワングワンするよ!
頭を抱えているとDIOが机の上のベルを鳴らす。なんだ?ブルマなお兄さんでも呼んだのか?
少し経つとノックの音が聞こえた。DIOが入れというと扉が開き、ブルマではなく頭の長いお兄さんが現れた。…うん、テレンスさんだね!

「お呼びでしょうかDIO様」
「ああ」

頭を上げたテレンスさんと眼が合う。彼の目が一瞬見開かれた後、私にも恭しく頭を下げてくる。慣れない扱いに背筋がむず痒くなる。

「客人だ。何か持って来てくれ」
「かしこまりました」

テレンスさんはもう一度頭を下げると、部屋から出ていこうとする。

「あ、あの!」

私の声にテレンスさんは止まり、DIOはこちらを見下ろす。…視線が集まって何とも言えない気分になるが、意を決して口を開く。

「何かお手伝いすること有りませんか?」

その言葉に二人が驚いたのが分かる。こちらでは客人が手伝う風習が無いのは分かっている。しかし、日本人として暮らした時間が長い私からすると、いきなり来てただただもてなされるのは、なんというか肩身が狭いのだ。お茶運びでも何でもいいから手伝わせて頂きたい。

「お客様にお手を煩わせるようなことは…」

ああ、テレンスさんが困ったようにしている…!やっぱり早まったか、と思うもやはり肩身が狭いものは狭い。ちらりとDIOを見ると、呆れたようにため息を吐かれた。

「テレンス」
「はっ」
「ヴァニラに廊下を掃除させろ」
「…は?」
「茉莉香」
「はい?」
「それが終わってからならテレンスの手伝いとやらをしてもいい」

その言葉に今度こそテレンスさんが心底驚いたような顔をする。

「本当!?」
「ああ、だがテレンスの仕事を増やしてやるなよ」
「そんなことしないよ!」

睨めばこれまた鼻で笑われた。人のイラっとする所を突くのが上手いですね!歯を剥いて睨んでいる内に、テレンスさんは部屋から出て行った。…なんだか恥ずかしい所を見られた気がするぞ?
ヴァニラが掃除終わるのっていつごろかな、と思ってハタと気づく。…掃除ってDIOが食い散らかした女の人の死体、だよね。先程まで何ともなかった扉から禍々しいオーラを感じる。

昨日の一件で妙にDIOに親近感的なものを感じていたが、彼はほんの気まぐれで人の命を奪える人なのだ。何故だかは分からないが私には危害を加えてはこない。(もしかしたら、彼も親近感と言うかそんな感情を抱いてくれているのも知れないが)
きっとDIOは彼女たちの命を奪う罪悪感はない。それは私達が普段食している豚やら牛やらに悪いと感じないのと同じだ。しかも、彼女たちには理性や選択肢が有る中DIOに付いて来ているのだ。ある意味彼女たちが選んだ結末でDIOを責めることが出来るのだろうか。
本心を言えば、責めたい気持ちも恐れる気持ちも、言ってしまえば嫌悪だってある。しかし、見上げれば私に目を向けてくれる彼を嫌いになれないだろうというのは、なんとなく確信していて。

私はきっといつまで経っても答えが出ないこの難題に、ただ大きなため息を吐くとこしかできなかった。

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